2026年10月25日の夜、GMOインターネットグループの代表・熊谷正寿さんが、公式ブログで謝罪しました。「お名前.com デスクトップクラウド」(FXの自動売買向けのサービス)への不正アクセスにより、利用者の取引口座が不正に操作される被害が出ていると報じられています。謝罪の中で、熊谷さん自身が、社内の技術者から、セキュリティ上の課題を事前に指摘されていたことも明かしました。
私が知っている中小企業でも、社員の忠告を聞き流してしまう社長は、結構います。社員が「これは危ないです」と声を上げてくれたとき、社長はどう受け止めればよいのでしょうか。
今日はそれについて、私の持論をお話しします。
目次
目次
- ニュースの概要
- 社員の忠告への対応で、経営者は何を問われるのか?
- 中小企業でも起きている、社員の忠告を聞き流す場面とは?
- 社員の忠告が後回しになる会社には、どんな空気があるのか?
- 社員の言うことは、全部聞かなければならないのか?
- 「言っても無駄だ」と思われないために、社長は何をすればよいのか?
- イエスマンだけの会社にしないことは、なぜ難しいのか?
- まとめ
ニュースの概要
GMOインターネットの公式のお知らせと各社の報道によると、経緯は次のとおりです。
- FXの自動売買向けのサービスが不正アクセスを受け、約2万7,000件のサーバーが影響を受けた可能性がある。サービスは全プランが止まり、利用者の取引口座が不正に操作される被害も報じられている
- 熊谷代表はブログで謝罪し、確認した損失の全額補償と、利用者への一律5,000円の見舞金を表明した
- 同じブログで、社内の技術者から事前にセキュリティの課題を指摘されていたのに、対応が十分ではなかったと認めた
- その後、攻撃者から当初5,000万ドル(約80億円)を要求されていたことも明かした。GMOは要求に応じない方針(テレビ朝日系の報道)
- あわせて、政府に「能動的サイバー防御」の適用を求めた(読売新聞の報道)
投資家の田端信太郎さんはYouTubeで、内部の忠告を聞かずに売上を優先し、攻撃者に脅されてから国に助けを求めている、という趣旨の批判をしています。「最初から社内の忠告を聞いておけ」という怒りが、批判の中心です。ただし、原因の調査はこれからで、社内の指摘と今回の侵入経路が同じものだったのかは、まだ分かっていません。この記事で取り上げるのは、GMOの是非ではなく、社員の忠告が後回しになるという、中小企業にも起こりうる問題のほうです。
社員の忠告への対応で、経営者は何を問われるのか?
法律上、GMOが利用者にどこまで責任を負うかは、契約の内容、事故の原因、事故の前後の対応といった個別の事情で決まります。調査結果が出ていない現時点では、責任の有無は分かりません。
一方で、社員の忠告をどう扱うかは、まず経営者が決める経営判断です。中小企業でも同じで、社員が「危ないです」と言ってくれたなら、その社員は役割を果たしています。その忠告を受け止めるのか、聞き流すのかを決めるのは、社長です。そして、問題が起きたあとは、「いつ知ったのか」と「知ってから何をしたのか」が問われやすくなります。
中小企業でも起きている、社員の忠告を聞き流す場面とは?
私が知っている中小企業の話です。ある会社では、幹部が部下にハラスメントをしていました。社員は、止めてほしいと何度も社長に訴えましたが、社長は「分かった、言っておく」と受け流しただけで、動きませんでした。その問題は、のちに大きくなってしまいました。
別のサービス業では、店長のお客様への態度や叱り方がひどいと、社員が社長に伝えました。それでも、社長は何もしませんでした。
どちらの社長にも、忠告は届いていました。にもかかわらず、動かなかったのです。忠告が出たことよりも、出たあとに動かなかったことが、問題を大きくします。ハラスメントを放置した場合は、会社の法的な責任が問われることもあります。
社員の忠告が後回しになる会社には、どんな空気があるのか?
GMOの社内で何が起きていたのかは、外からは分かりません。ただ、中小企業で社員の忠告が後回しになる会社には、共通する空気があります。社員が「この社長には、言っても無駄だ」と思っていることです。
その空気をつくるのは、社長です。普段からイエスマンばかりをそばに置き、自分と違う意見を言う人を遠ざけていれば、社員は口を閉ざします。
偉そうにしていない社長でも、同じことは起きます。社員が何を言っても「はいはい、分かった」と返事だけして何もせず、言ったことが実現されないまま、回答も返ってこない。そんなことが続いて「あれ、どうなったんだろう」と思うたびに、社員は少しずつ、社長に期待しなくなっていくのです。先ほどの2つのケースも、根っこは同じです。
社員の言うことは、全部聞かなければならないのか?
もちろん、社員の言うことを、全部その場で受け入れる必要はありません。休みや給料など、社員からの要望には、会社にできることとできないことがあります。慎重に判断して、要検討としてかまいません。
一方で、ハラスメントが起きている、お客様への対応が悪いといった忠告は、扱いが違います。こうした忠告は、中小企業ではそう頻繁に届くものではありません。だからこそ、届いたときに聞き流して、得をする会社はありません。忠告の裏には、被害を受けている社員やお客様がいます。問題が大きくなってから動けば、手間も、失う信頼も、最初に動くより大きくなります。
「言っても無駄だ」と思われないために、社長は何をすればよいのか?
仕組み(ハード)として必要なのは、社員の意見を定期的に吸い上げる場をつくることです。定期面談や1on1のように、日を決めて、社員の話を聞く機会を設けます。たとえば3か月に1回、1人30分でもかまいません。社長が直接聞くのが苦手なら、部長や課長などの幹部に任せてもかまいません。あわせて、自分と反対の考えを持つ人を、近くに置いてください。イエスマンばかりの中にいると、社長の判断に誰も待ったをかけられません。
関わり方(ソフト)として一番大事なのは、吸い上げた意見をちゃんと聞くことです。課長に「社員の意見を聞いてこい」と言っておきながら、課長が「社員がこう言っています」と報告した途端に、「うるさい、ばかやろう」と突き返す。そんな社長は、すぐに社員から見限られます。すぐに対応できないことでも、「今はできない。理由はこうだ」と、回答だけは必ず返してください。社員が期待しなくなるのは、断られたときではなく、何も返ってこないときです。
聞く場をつくっても、上がってきた意見を聞かなければ意味がありません。聞く姿勢があっても、聞く場がなければ、意見は上がってきません。ハードとソフトの両方がそろって、初めて社員は口を開きます。
イエスマンだけの会社にしないことは、なぜ難しいのか?
とはいえ、イエスマンだけの会社にしないのは、とても大変です。人は、自分に賛成してくれる人の話のほうが、心地よく聞こえるからです。
では、社長はどうすればよいのか。私は、他社に学ぶこと、本を読むこと、そして松下幸之助さんや稲盛和夫さんのように、昔から経営者が残してきた言葉や失敗談に触れることだと考えています。そこに書いてあるのは、当たり前のことばかりです。その当たり前を、今あらためて知ることが、社長が自分を見失わないための近道です。
まとめ
GMOの熊谷代表は、社内の技術者から事前に指摘されていた課題への対応が十分ではなかったと説明しました。原因はこれからの調査を待つ必要がありますが、社員の忠告が後回しになる問題は、中小企業でも起きています。
忠告が後回しになる会社には、「この社長には言っても無駄だ」という空気があります。その空気は、イエスマンばかりをそばに置くことでも、「はいはい、分かった」で何も返さないことでも生まれます。定期面談や1on1で社員の意見を吸い上げる場をつくり(ハード)、上がってきた意見をちゃんと聞いて、回答を必ず返す(ソフト)。どちらも当たり前のことですが、その当たり前ができているかどうかで、社員が口を開くかどうかが決まります。
あなたの周りには、あなたに「それは違います」と言ってくれる社員が、何人いるでしょうか。
社員の声を、どう聞いて、どう返せばよいのか。姫路の中小企業の現場を知る採用定着士が、一緒に考えます。

