「社員が勝手にやったことだから、会社は関係ない」
そう思っている経営者は、一度立ち止まっていただきたいと思います。
SNS情報漏洩が発生した場合、会社は使用者責任を問われる可能性があります。
被害者から多額の損害賠償を請求されるのは、社員だけではありません。
前回(第1回)では、西日本シティ銀行のBeReal炎上事件を取り上げました。
今回は「法的に何が問われるのか」を具体的に解説します。
目次
目次
- 使用者責任とは——会社が負うリスクの根拠
- 個人情報保護法違反——会社に課せられる義務
- 損害賠償の現実——請求額はどこまで膨らむか
- 会社が社員に全額請求するケース
- 「知らなかった」「禁止していなかった」は通用しない
- よくある質問
- まとめ
使用者責任とは——会社が負うリスクの根拠
民法715条は「使用者責任」を定めています。
ひとことで言えば、「社員が業務上の行為で他人に損害を与えた場合、会社も責任を負う」というルールです。
「でも、BeRealは業務外のプライベートな行為では?」と思う方もいるでしょう。
問題は、投稿した場所・タイミングです。
- 就業時間中に職場内で撮影・投稿した場合 → 業務との関連性が認められやすい
- 休憩時間中であっても、職場内で職場の情報が映り込んだ場合 → 同様に問題となりえます
- 職場内の顧客情報・患者情報が漏洩した場合 → 個人情報保護法上の義務違反も重なります
「社員が悪い」は当然です。しかし「会社は悪くない」にはならないのが、使用者責任の怖いところです。
個人情報保護法違反——会社に課せられる義務
個人情報保護法は、個人情報を扱う事業者に対して「安全管理措置」を義務づけています。
具体的には、個人情報が漏洩しないよう、技術的・組織的な対策を講じなければなりません。
SNS投稿による情報漏洩は、この「安全管理措置が不十分だった」と判断される典型例です。
- 社員へのSNS利用に関する教育・研修を実施していたか
- 就業規則にSNS利用の禁止・制限を明記していたか
- 職場内での撮影を制限していたか
これらが整備されていなければ、会社自身が個人情報保護法違反として行政から指導・勧告を受けるリスクがあります。さらに、被害者からの民事訴訟でも会社の責任が問われます。
損害賠償の現実——請求額はどこまで膨らむか
SNS情報漏洩の損害賠償は、複数の要素が積み上がります。
- 被害者への慰謝料:漏洩した個人の数・情報の内容によります。氏名のみなら1人数千円〜数万円ですが、病歴・住所・財務情報が含まれれば跳ね上がります
- 信用回復のための費用:謝罪広告、お詫び状の発送、コールセンター設置など
- 顧客離れによる逸失利益:SNS炎上が評判を傷つければ、取引停止による損失が発生します
- 弁護士費用・対応コスト:事後対応だけで数百万円規模になることもあります
小さな規模の漏洩でも、数十人規模の被害者への慰謝料と対応コストを合計すれば、中小企業にとっては経営を揺るがす金額になります。
会社が社員に全額請求するケース
ここが、経営者にとって一番重要なポイントです。
会社が被害者に損害賠償を支払った後、会社は社員に対して求償(全額または一部を請求)することができます。
特に、
・就業規則でSNS利用を明確に禁止していた
・禁止の周知・教育を行っていた
・それでも社員が故意または重大な過失で違反した
この場合、会社は社員に損害額の全部もしくは一部を請求できる可能性があります。
若い社員が、数百万〜数千万円の賠償責任を負う。
会社がそれを求償する——これは「社員を守れなかった」ことでもあります。
だからこそ、事前にルールを作り、「なぜ禁止するのか」を丁寧に説明することが、会社と社員の両方を守ることになります。
「知らなかった」「禁止していなかった」は通用しない
就業規則にSNS規定がない会社は多いです。
10年前に作った就業規則をそのまま使っている会社も多いです。
しかし、裁判や行政指導の場では「就業規則に書いていなかった」は、会社の免責事由になりません。
むしろ「安全管理措置が不十分だった証拠」として、会社の責任を重くする方向に働きます。
「BeRealを知らなかった」も同様です。
新しいアプリが登場するたびに、就業規則を即座に更新するのは難しいです。だからこそ、「即時投稿型SNS」「ランダム通知で撮影を促すアプリ」という概念でくくって規定しておく必要があります。
よくある質問
Q. 就業規則にSNS規定を追加するだけで、会社のリスクは下がりますか?
A. 規定を作るだけでは不十分です。重要なのは「周知・教育」です。規定の内容を社員に説明し、理解させた記録を残すことが、いざというときの会社の防衛線になります。作って終わりではなく、入社時研修・定期的な説明の機会を設けることが必要です。
Q. すでにBeRealを使っている社員がいます。すぐに禁止することはできますか?
A. できます。就業規則の改定(または特別規定の追加)を行い、合理的な猶予期間(例:周知後14日以内にアンインストール)を設けて通知する方法が現実的です。一方的に即日禁止するより、「なぜ禁止するのか」の理由を丁寧に説明することが社員の納得を得るために重要です。
まとめ
SNS情報漏洩は「社員の問題」ではなく「会社の問題」です。
- 使用者責任:社員の行為で会社も賠償責任を負います
- 個人情報保護法:安全管理措置が不十分なら会社が違反となります
- 求償:会社が払った賠償を社員に請求するケースもあります
次回(第3回)では、就業規則のSNS規定を具体的にどう整備すべきか、実際の条文の構成を紹介しながら解説します。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

