人材紹介会社への紹介料が年収の30%。転職サイトへの掲載が1職種4週間で数十万円。
採用コストが上がり続ける中、注目されているのがリファラル採用(社員の紹介・口コミによる採用)です。コストをほぼゼロに抑えられるうえ、紹介経由の採用は定着率が高い傾向があります。
でも、「制度を作ったのに誰も紹介してこない」「報酬を設定したが使われなかった」という声もよく聞きます。なぜうまくいかないのか。その本質をお伝えします。
目次
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リファラル採用が注目される理由
リファラル採用(Referral Recruitment)とは、自社の社員に知人・友人・元同僚などを紹介してもらう採用手法です。
注目される理由はシンプルです。
- 採用コストが低い:紹介手数料ゼロ〜社内インセンティブのみ
- 定着率が高い:入社前から会社の実情をある程度知っている
- カルチャーフィットしやすい:紹介した社員が「この会社に合う人」を選ぶ傾向がある
- 潜在的な転職者にアプローチできる:求人サイトを見ていない優秀な人材に届く
人手不足が慢性化する今、「お金をかけても人が集まらない」という状況を打開する一手として、中小企業でも取り入れる会社が増えています。
報酬設計の4パターン——どれが正解?
リファラル採用の制度設計で最も議論になるのが報酬(インセンティブ)をどう設定するかです。大きく4つのパターンに分けられます。
- ①紹介者のみ・一括支給:紹介した社員だけに入社時一括で報酬を支払う
- ②紹介者のみ・分割支給:紹介した社員に、入社時+一定期間後に分けて支払う
- ③紹介者・入社者の双方・一括支給:紹介した社員と入社した新人の両方に入社時一括で支払う
- ④紹介者・入社者の双方・分割支給:双方に、入社時+一定期間後に分けて支払う
私が考える推奨は④(双方・分割支給)です。
理由は2つあります。まず、紹介された新人が「自分を紹介したことで紹介者だけが得をしている」と感じると、職場の人間関係に影響します。双方にメリットがある設計の方が、日本の職場文化には合っています。次に、分割支給にすることで「定着してくれたら報酬が入る」という設計になり、紹介者も新人のフォローに自然と関わるようになります。
他のパターンの考え方
一方で「①(紹介者のみ・一括)」を推す意見もあります。「入社者にも報酬を出すと、お金目当てで紹介される可能性がある。新人は入社するかどうかを自分で覚悟して決めるべき」という考え方です。実際、「紹介したら報酬をもらえる」という説明が先行して応募意欲が歪む事例もあります。
「②(紹介者のみ・分割)」は、就業規則への規定がしやすく、かつ定着を促す仕組みとして現実的な選択肢です。
どれが「絶対正解」というわけではありません。会社の文化や職種、採用の目的によって最適なパターンは変わります。重要なのは「なぜそのパターンにするのか」を社員に説明できることです。
「報酬を出すな」という専門家の見解
実は、リファラル採用の専門家の中には「報酬を出さない方がうまくいく」という意見もあります。
その根拠は次のとおりです。
- 報酬があると「お金のために紹介する」という動機が生まれ、質より量の紹介になりやすい
- 本当に紹介したくなる会社なら、報酬がなくても「いい会社だよ」と口コミが広がる
- 大切なのは「企業の魅力づくり」「誰でも心理的負担なく紹介できる動線づくり」「定期的な発信」の継続
「自社を友人に薦めたいと思うか?」——この問いに「はい」と答えられる社員が多ければ、報酬がなくてもリファラルは自然発生します。逆に、報酬を設定してもこの土台がなければ機能しません。
ある派遣会社では、①〜④すべてのパターンを試したものの、どれも期待通りの結果にならなかったという実例もあります。報酬設計の前に、もっと根本的な問いを立てることが必要です。
リファラルが機能しない会社の共通点
リファラル採用がうまくいかない会社には、共通した特徴があります。
「紹介してほしい」と頼むだけで仕組みがない。これが最も多いパターンです。「誰に言えばいいかわからない」「断ったら気まずい」「そもそも制度があることを知らなかった」——社員はこう感じています。
また、既存社員の満足度が低い状態では、どんな報酬を設定してもリファラルは動きません。高額(数十万円)の紹介料を設定しても機能しなかった企業の事例があります。社員が「この会社を紹介したくない」と思っていれば、制度はあってもゼロです。
採用定着の観点から言うと、リファラルを成功させる前提条件は「今いる社員が定着している会社」であることです。「採用より定着が先」——これはリファラルにおいても同じです。
導入前に必ずやるべきこと
リファラル採用を導入する前に、次の3点を確認してください。
①社員満足度の把握
「今の社員はこの会社を友人に薦めたいと思っているか?」を把握することが出発点です。簡単なアンケートでも構いません。結果を見てから制度設計を考える方が、はるかに確実です。
②就業規則・賃金規程への明記
リファラル報酬は賃金に該当します。賃金規程や従業員紹介制度規程に、金額・支給対象・支給時期を明記しなければ労基法違反になる可能性があります。「とりあえずやってみる」では済みません。
③紹介しやすい動線づくり
「誰に言えばいいか分からない」を解消することが重要です。専用のフォームや連絡窓口を作り、上司を通さず直接申し込める仕組みにする。心理的ハードルを下げることが、制度の稼働率を上げます。
よくある質問
Q. リファラル報酬は就業規則に書かないといけない?
A. 書く必要があります。リファラル報酬は賃金に該当するため、賃金規程や従業員紹介制度のような規程に金額・支給対象・支給時期を明記しないと労基法違反になる可能性があります。「口約束でとりあえず払う」は後のトラブルの種になります。
Q. 報酬なしでリファラルを機能させることはできる?
A. できます。むしろ報酬なしの方がうまくいくケースも多いです。報酬があると「お金目当てで紹介した」という空気が職場に生まれることがあります。大切なのは「この会社を友人に薦めたいと思えるか」という既存社員の満足度の土台です。まずは社員が「いい会社だ」と思える職場を作ることが先決です。
まとめ
リファラル採用は、うまく機能すれば採用コストを大幅に削減しながら定着率の高い人材を獲得できる強力な手法です。しかし、制度を作るだけでは機能しません。
大切なのはこの順番です。
- ① まず「今いる社員が定着している職場」を作る
- ② 社員満足度を把握し、紹介したいと思える環境か確認する
- ③ 就業規則・賃金規程に制度を明記する
- ④ 心理的負担なく紹介できる動線を整える
- ⑤ 報酬設計はその後に考える
リファラル採用は「採用の問題」ではなく「定着の問題」です。採用にお金をかける前に、今いる社員が辞めない職場を作ることが先決です。
「また辞めた」「応募が来ない」——その悩み、仕組みで解決できます。姫路の中小企業の採用定着を、一緒に仕組み化しましょう。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

