姫路の採用定着士が解説、退職代行20人に1人時代に中小企業が採用の前にすべきこと

姫路の採用定着士が解説、退職代行20人に1人時代に中小企業が採用の前にすべきこと

2026年7月24日

「退職代行を使われた」——もう珍しい話ではありません。パーソル総合研究所の調査では、正社員として離職した人のうち5.1%、およそ20人に1人が退職代行を利用したと回答しています。今回は、この数字が中小企業の採用・定着にとって何を意味するのかを整理します。

目次

  1. 退職代行はもう「20人に1人」が使う当たり前のサービス
  2. 企業側も8.8%が経験、大企業では5社に1社に
  3. 利用者に共通するのは「上司への不満」と「ハラスメント経験」
  4. なぜ「本人の口から」言えない関係になってしまうのか
  5. 退職代行には、実は一つだけメリットがある
  6. 退職代行を「使われない」会社になるためにできること
  7. 退職代行は個人の問題ではなく、経営リスクでもある

退職代行はもう「20人に1人」が使う当たり前のサービス

パーソル総合研究所が実施した「離職の変化と退職代行に関する定量調査」によると、正社員離職者の5.1%(およそ20人に1人)が退職代行を利用しています。

マイナビの調査でも、直近1年間で転職した人の16.6%が退職代行を利用したと回答しており、20代に限ると18.6%とさらに高くなります。世代が若いほど、退職代行という選択肢への抵抗感が薄いことがうかがえます。

「そんなサービス、なくなってほしい」と思う経営者の方も多いでしょう。ですが、これだけ利用が広がった以上、今後なくなることは考えにくいというのが実情です。退職代行はすでに一つの「業界」として定着しており、対応スピードや料金を比較する情報サイトまで存在しています。

つまり前提として持っておくべきなのは、「使われないようにする」だけでなく「使われる可能性は常にある」という現実です。その上で、使われにくい会社をどう作るかを考える必要があります。


企業側も8.8%が経験、大企業では5社に1社に

東京商工リサーチが2026年4月に実施した企業向け調査では、2024年1月以降に退職代行を通じた従業員の退職を経験した企業は8.8%。前年の調査から1.6ポイント増加しています。大企業に限ると21.3%、実に5社に1社を超えています。

業種別では宿泊業が24.1%と最も高く、警備会社などを含むサービス業、製造業と続きます。人手を多く抱え、シフト制や現場作業が中心の業種ほど、影響を受けやすい傾向がうかがえます。

中小企業だからといって無関係ではありません。むしろ「うちは大丈夫」と思っている会社ほど、実際に使われたときの動揺は大きくなります。人手に余裕のない中小企業ほど、1人が急に抜けることの影響は大きく、代わりを探す採用コストもすぐには回収できません。


利用者に共通するのは「上司への不満」と「ハラスメント経験」

パーソル総合研究所の調査では、退職代行の利用者の傾向として、上司への不満を抱えていた人が約7割、上司からのハラスメントを経験していた人が約4割にのぼると報告されています。前職の在籍期間が「1年未満」だった人も約4割を占めています。

つまり退職代行は、突発的な気まぐれで使われるものではなく、日頃の関係性の積み重ねの結果として選ばれているケースが多いということです。

在籍1年未満での利用が約4割という数字も見逃せません。これは、採用した直後、まだ関係性が十分に築けていない段階でのつまずきが多いことを示しています。入社後の早い時期にどれだけフォローできているかが、そのまま結果に直結しています。


なぜ「本人の口から」言えない関係になってしまうのか

退職代行を使われるということは、「辞めたい」と本人の口から直接伝えられる関係が、社内になかったということでもあります。引き止められる、責められる、気まずくなる——そう感じさせてしまう空気があれば、本人は自分の口で言うことを避けます。

これは制度や待遇だけの問題ではありません。日頃の声かけ、ミスをした時の反応、意見を言ったときの受け止め方。こうした小さな積み重ねが、「ここでは正直に言える」と思えるかどうかを決めています。


退職代行には、実は一つだけメリットがある

ここまで退職代行のマイナス面を見てきましたが、実は一つだけ、会社側にとってのメリットがあります。退職代行の担当者に理由を尋ねると、本当の退職理由を教えてくれることが多いということです。

本人が直接退職を申し出る場合、多くは「家庭の事情」「体調不良」といった当たり障りのない理由で片付けられてしまいます。本当の理由がどこにあるのか、会社側が踏み込んで聞き出すのは簡単ではありません。ところが退職代行を介した場合、業者側があらかじめ本人から詳しい経緯を聞き取っているため、会社側が問い合わせると、想像以上に率直な内容が返ってくることがあります。

つまり退職代行からの連絡は、単なる「辞めます」という通知ではなく、自社の労務環境や組織の課題を映す貴重な情報源にもなり得るということです。普段なら聞けない本音を知る、数少ないチャンスとも言えます。

大事なのは、ここで聞けた本当の理由を「もう辞めた人の話」で終わらせないことです。同じ理由で他の誰かが辞めようとしていないか、同じ芽が社内に残っていないか。1人の退職理由を、組織全体の改善にどう活かすかという視点があるかどうかで、次の離職を防げるかどうかが変わってきます。


退職代行を「使われない」会社になるためにできること

採用の入口をどれだけ強化しても、辞めたい気持ちを本人が言い出せない関係のままでは、同じことの繰り返しになります。まず見直したいのは次の3点です。

1つ目は、日々の声かけ。おはよう、ありがとう、お疲れ様。当たり前のようで、これが習慣になっている会社とそうでない会社では、定着率に差が出ます。

2つ目は、ミスや疑問に対する反応です。「なんでそんなミスしたの」ではなく「報告してくれてありがとう」から入れるか。この一言の積み重ねが、本音を言える空気を作ります。

3つ目は、節目ごとの個別面談です。入社3日目、2週間目、1ヶ月目。忙しさを理由に後回しにせず、短時間でも「どう?」と聞く場を確保できているかどうかです。

4つ目は、退職者から聞けた本当の理由を、その場限りにせず記録し、組織として振り返る仕組みを持つことです。前述の通り、退職代行を通じて本音が聞けた場合はなおさら、そこで終わらせずに次へつなげます。

どれも特別なことではありません。ただ、この当たり前を「仕組み」として毎回やり続けられるかどうかで、結果は大きく変わります。


退職代行は個人の問題ではなく、経営リスクでもある

退職代行は「本人の心の弱さ」の問題として片付けられがちですが、実際にはそうとも限りません。急な欠員によって残ったメンバーの負担が増え、職場の雰囲気が悪化し、また次の離職を招く——この負のループに入ってしまうと、抜け出すのに時間がかかります。

さらに、退職代行を使われた背景にハラスメントや未払い残業代などの労務トラブルが隠れていた場合、退職後に労働基準監督署への申告や、弁護士を通じた請求に発展するケースもあります。退職代行はゴールではなく、水面下にあった問題が表面化する入口にすぎないこともあるのです。

だからこそ、退職代行を使われた後の対応だけでなく、使われる前の労務環境そのものを点検しておくことが、経営リスクを抑える意味でも重要になります。

よくある質問

Q. 退職代行を使われた場合、会社側はどう対応すればよいですか?

A. まずは冷静に、退職の意思表示として通常の手続きを進めることが基本です。感情的に本人へ直接連絡を重ねることは避け、貸与品の返却や離職票の手続きなど、事務的な対応を淡々と進めましょう。その上で、なぜ本人が直接言えなかったのかを振り返る機会にすることが、次の離職を防ぐ手がかりになります。

Q. 退職代行を使った人の採用歴は、選考で気にすべきですか?

A. 退職代行の利用歴だけで一律に不採用とするのは慎重であるべきです。前職での関係性や環境に起因するケースも多く、自社で同じ状況が起きるとは限りません。それよりも、面接で「なぜ前職を辞めたのか」を丁寧に聞き取り、自社の環境で同じことが起きないようにする方が建設的です。

まとめ

退職代行の利用は、もはや一部の特殊なケースではなく、20人に1人という規模で起きている現実です。この流れそのものを一社の力で変えることはできません。

変えられるのは、自社の中で「本人が直接言える関係」を作れているかどうか、そして退職代行から聞けた本当の理由を次にどう活かすかです。自社の労務環境やコミュニケーションのあり方を見直したい方は、ぜひ当社にご相談ください。

出典:パーソル総合研究所「離職の変化と退職代行に関する定量調査」/東京商工リサーチ「企業の”退職代行”に関するアンケート調査(2026年4月)」/マイナビ「退職代行サービスに関する調査レポート」

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。