姫路の特定社労士が解説|社会保険の手続きでよくある勘違い 残業代が増えたパート社員、随時改定(月額変更届)を提出する必要があるか?

姫路の特定社労士が解説|社会保険の手続きでよくある勘違い 残業代が増えたパート社員、随時改定(月額変更届)を提出する必要があるか?

この夏、パート・アルバイトを70人ほど抱える物流センターで、給与システムの画面を並んで見ていたときのことです。月額変更届の話になり、経理担当のAさんはごく自然にこう言いました。

「給与システムに表示された人は、全員分の月額変更届を提出しています。表示されたら提出するものだと思っていました」

毎月きちんと画面を開いて、一人ずつ確認していたわけですから、そこは本当に立派です。ただ、提出していた月額変更届の多くは、そもそも提出する必要のないものでした。今日はそれについて、私の持論をお話しします。


目次

  1. 事例の概要
  2. 残業代が増えただけでは、月額変更届の提出は不要
  3. 資格取得届の報酬月額の誤りは、月額変更届ではなく資格取得時の報酬訂正で直す
  4. 月額変更届の判断ミスを防ぐ、固定的賃金の変更記録と現場との連携
  5. よくある質問
  6. まとめ

事例の概要

その物流センターで起きていたことを並べると、こうです。

  • 給与システムに、ここ数か月、毎月5〜6人の「月額変更の候補者」が表示されていた
  • 候補者の大半は、時給単価も月給も諸手当も、増えても減ってもいない
  • 春の引っ越しシーズンからお中元の時期までが繁忙期で、残業と深夜のシフトが月40時間ほど増えていた
  • 候補者として表示された人の月額変更届は、Aさんが毎月すべて提出していた

話を聞いて、正直、これはまずいと思いました。給与を担当する人にとって、月額変更届が必要かどうかの判断は、知っていて当然の知識です。ここを間違えると、会社は余計な届出と保険料の精算を抱え込み、従業員は理由の分からない保険料の変動に振り回されます。担当者にこの知識がないなら、会社がとれる道は3つしかありません。

  1. 担当者に給与計算実務能力検定などの検定を受けてもらい、体系立てて学んでもらう
  2. この判断ができる人を雇う
  3. 給与計算を外注する

特に、知識があいまいなまま真面目に取り組む人ほど、システムの表示を「提出してください」という指示として受け取ってしまいます。給与システムの候補者一覧は、「念のため確認してください」という合図であって、「この人の月額変更届を提出してください」という結論ではありません。システムの設定によっては、時給×勤務時間で計算した基本給を「固定的賃金」の項目として扱っているので、勤務時間や残業が増えただけの人も、時給が変わった人と同じ一覧に並んできます。どちらなのかを見分けるのは、人の仕事です。

判断を間違えると、会社も従業員も困ります。時給は1円も変わっていないのに、ある月から保険料だけが上がって手取りが減る。本人からすれば「何もしていないのに、なぜ?」としか思えませんし、聞かれたAさんも、理由をうまく説明できません。給与明細を見て首をかしげた経験が一度でもあると、会社の給与計算そのものを信用しなくなる人もいます。


残業代が増えただけでは、月額変更届の提出は不要

月額変更届(随時改定)を提出するのは、次の3つが全部そろったときです。

  1. 昇給・降給など、固定的賃金に変動があった
  2. 変動後の給与が1か月分支払われた月から3か月間の報酬の平均から計算した標準報酬月額が、今までと比べて2等級以上違う(等級表の上限・下限にかかる場合は、1等級の差でも対象になることがあります)
  3. その3か月とも、支払基礎日数が17日以上ある(特定適用事業所で働く短時間労働者は11日以上)

スタート地点は1つ目の「固定的賃金の変動」です。給与の合計がどれだけ増えても、固定的賃金が動いていなければ、2つ目・3つ目を見るまでもなく対象外です。固定的賃金とは、支給額や支給率があらかじめ決まっているもののことで、パートなら時給の単価、正社員なら月給や役付手当・住宅手当などの決まった手当がこれに当たります。

残業手当や深夜手当は、その反対側にある非固定的賃金です。年金機構の事例集にも、残業代は月ごとの時間数が決まっていないので、単に時間が増えた・減っただけでは随時改定の対象にならない、とはっきり書かれています。物流センターの繁忙期に残業と深夜が月40時間増えた人も、時給も月給も手当も変わっていなければ、提出する場面ではありません。

時給が変わらなくても、月額変更届の確認が必要になる主なケース

ここで「残業や手当の話は全部関係ない」と覚えてしまうと、今度は提出すべき月額変更届が漏れます。年金機構の案内や事例集には、見落とされやすいケースがいくつも載っています。

  1. 時給は変わらないが、契約時間が変わった(1日8時間契約から6.5時間契約へ、など)
  2. 残業手当の割増の割合など、残業代の計算ルールそのものが変わった(時給の改定に連動して残業単価が上がっただけの場合は除く)
  3. 在宅勤務への切り替えなどで通勤手当の支給をやめた、月額から日額の支給に変えた
  4. 役職がついて役付手当が新しく付いた、または役職を外れて手当がなくなった

パート・アルバイトの多い会社で特に漏れやすいのが、1つ目の契約時間の変更です。会社と本人で話し合って「週3日から週5日へ」と雇用契約書を巻き直せば、時給が同じでも固定的賃金の変動に当たります。数え始めるのは契約を変えた日ではなく、変更後の給与が実際に1か月分支払われた月からです。

通勤手当も、交通費だから社会保険とは関係ないと思われがちですが、健康保険法・厚生年金保険法の「報酬」に含まれます。支給のルールが決まっている通勤手当は固定的賃金として扱われるので、引っ越しや配置換えで通勤手当が変わった人がいれば、確認の対象に入れてください。一方で、産休などで通勤の実績がないために支給していないだけなら、手当の制度をやめたわけではないので対象外です。


資格取得届の報酬月額の誤りは、月額変更届ではなく資格取得時の報酬訂正で直す

Aさんが月額変更届を提出し続けていた理由を、もう一歩踏み込んで聞いてみると、入社時の資格取得届にたどり着きました。資格取得届の報酬月額を「時給×契約時間」だけで計算して、繁忙期にほぼ毎月発生する残業や深夜の手当を、見込みとして一切入れていなかったのです。「最初に低く届けてしまったから、上がった分は月額変更届で直さないといけない」と考えていました。

入社時の届を直したい、という発想の方向は間違っていません。ただ、直す相手と書類が違いました。時給で働く人の資格取得時の報酬月額は、健康保険法42条1項2号・厚生年金保険法22条1項2号で、入社した月の前の1か月に、同じ事業所で同じような業務をしている人が受けた報酬の平均で決めることになっています。この「報酬」には、残業代や深夜の手当も含まれます。同じ作業班の人に前の月も残業代が出ていたのに、時給×契約時間だけで届けたのであれば、それは見込みが外れたのではなく、報酬月額の計算の誤りです。この場合は月額変更届ではなく、年金事務所に相談して資格取得時の報酬月額を訂正し、入社月にさかのぼって標準報酬月額を直します。たとえば、残業なしで報酬月額20万円と届けたものの、同じ作業班の前月の実績で計算すると30万円になる、というケースでは、年金事務所から訂正を求められることがあります。

ただし、訂正できるのは計算そのものを誤った場合です。年金機構の事例集やQ&Aでは、固定的賃金の算定誤りなどは訂正できる一方、残業代のような非固定的賃金の見込みが、あとから当初の算定額より増えた・減ったという理由では訂正できない、とされています。法律どおりの方法で計算して届けていれば、その後の残業の増減で直すことはできません。訂正すると、入社月にさかのぼって保険料の差額が発生します(徴収は時効の2年分まで)。本人負担分は給与からまとめて天引きできるわけではないので、本人への説明と支払い方法の相談が必要になり、会社にも本人にも負担が出ます。入社時にきちんと計算しておくほうが、ずっと楽です。

「低いなら保険料が安くて、本人も会社も得じゃないか」と思われるかもしれません。ですが、標準報酬月額は保険料だけでなく、病気で休んだときの傷病手当金や、産前産後の出産手当金、将来の厚生年金の額にもそのままつながっています。入社して半年で体調を崩した人が、傷病手当金の額を見て「こんなに少ないんですか」と驚く。そのとき本人が向ける目は、協会けんぽではなく会社のほうです。

パート・アルバイトの資格取得届は「時給×契約時間」だけで計算しがちです。ですから私は、資格取得届を提出するときは、入社した月の前の1か月に、同じ作業班で働いている人が受けた残業・深夜の手当を含む報酬の実績を横に置いて、その平均で届けてくださいとお伝えしています。たとえば時給1,250円の人に、法定労働時間を超える残業が月20時間あれば、25%の割増を含めて1か月で3万1,250円になります。「残業ゼロ」で届けるのは、その3万円あまりを最初からなかったことにするのと同じです。


月額変更届の判断ミスを防ぐ、固定的賃金の変更記録と現場との連携

では、どうすれば間違えないのか。私が企業にお勧めしているのは、システムの候補者一覧を開く前に、会社の側で「今月、固定的賃金が動いた人」のメモを先に作っておくことです。

ハード(仕組み・書類)の面では、次のような変更があったら、その月のうちに書き足していく「固定的賃金の変更メモ」を1枚用意します。Excelでも紙でも構いません。

  • 時給・日給・月給の改定、時給から月給への切り替え
  • 契約時間・契約日数の変更
  • 役付手当など決まった手当の新設・廃止・金額の変更
  • 残業代の割増率の変更、手当そのものの新設・廃止
  • 通勤手当の変更

雇用契約書を作り直したとき、辞令を渡したとき、通勤手当の申請書を受け取ったとき、その書類を処理した人がメモに書き足します。システムの候補者のうち、このメモに名前がない人は、原則として月額変更届の対象外です。名前がある人についてだけ、3か月とも支払基礎日数が足りているか、平均で2等級以上の差があるか、固定的賃金と平均の上がり下がりの向きがそろっているかを確かめれば十分です。これだけで、毎月の判断はずいぶん軽くなります。

ただ、仕組みだけでは回りません。ソフト(関わり方・対話)の面で大事なのは、Aさんのような担当者が、センター長や班長から「来月からこの人、週5日になります」と、その日のうちに教えてもらえる関係があるかどうかです。契約時間の変更は、たいてい現場で本人と話して決まり、事務所に伝わるのは給与の締め日を過ぎてから、ということが珍しくありません。メモを用意するだけでなく、「契約を変えたら、その日に一言ください」と社長の口から現場に伝えておいてください。

それから、担当者を一人で迷わせないことです。候補者一覧を前に「この人はどっちだろう」と思ったとき、社内に聞ける人がいなければ、真面目な担当者ほど「提出しておけば安全だろう」と考えます。迷ったら顧問の社労士や年金事務所にすぐ聞いていい、という空気を、会社として作っておいてください。そして保険料が変わる従業員には、給与明細を渡す前に「時給が上がったので、何か月か先の給与から保険料も上がります」と伝えてあげてください。このひと声があるかないかで、明細を見たときの本人の受け止め方は大きく変わります。


よくある質問

Q. 残業が増えただけの人の月額変更届を、これまで何件も提出してしまっていました。どうすればいいですか?

A. まず、これまでに提出した月額変更届の控えを手元にそろえて、1件ずつ「その月に固定的賃金が動いていたか」を確認してください。動いていなかったものは、管轄の年金事務所に相談して、取消(訂正)の手続きを取ります。保険料は会社と本人が半分ずつ負担しているので、払いすぎた分は会社と本人の両方に発生します。ただし、保険料の還付を受ける権利は2年で時効になるため、それより前の分は戻りません。還付金の受け取り方と本人負担分の返し方、その間に受けた傷病手当金などの給付や年金記録への影響は、年金事務所・協会けんぽに確認しながら進めてください。黙って手続きだけ進めずに、対象の従業員には事情を説明してください。

Q. 時給が50円上がったのに、繁忙期が終わって残業が減り、給与の合計は下がりました。月額変更届は必要ですか?

A. 3か月の平均で2等級以上下がっていても、この場合は対象になりません。時給が上がった向きと、報酬の平均が動いた向きが逆だからです。反対に、時給が下がったのに残業が増えて平均が上がった場合も、同じく対象外です。システムの候補者一覧にはこうした人も並ぶことがあるので、金額の差だけで判断しないでください。


まとめ

「表示されたら提出するものだと思っていました」と言った、Aさんの話に戻ります。Aさんがつまずいたのは、入社時の資格取得届で残業代を入れずに計算していたこと、それを月額変更届で直せると思っていたこと。そして、確かめる材料が給与システムの一覧しかなかったことです。

月額変更届でまず見るべきは、給与の合計ではなく「時給・契約時間・決まった手当が変わったか」です。変わった人だけ、残業代も含めた3か月の平均で2等級以上の差があるか、支払基礎日数が足りているか、上がり下がりの向きがそろっているかを確かめます。その「変わったか」の答えを持っているのはシステムではなく、雇用契約書を作り直した現場と、通勤手当の申請書を受け取った事務所のほうです。変更メモを1枚置くこと、現場から一言もらえる関係をつくること。この2つがそろえば、候補者一覧は「提出する人の名簿」から「確かめる人の名簿」に変わります。

そして入社のときは、同じ業務の人の前月の実績をもとに、残業代も含めて届けてください。社会保険の数字は、従業員が病気で休んだ日や、何十年か先に年金を受け取る日に、もう一度その人の前に現れます。

「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る社労士が、一緒に整理します。