先月、たつの市で業務用の食品を製造している会社の社長さんから、来年度の年間カレンダーを見てほしいと言われました。従業員は40名ほど。工場と配送があり、来年度は年間休日を112日から120日に増やす案になっていました。
理由は採用です。「求人を出しても来ない。休みが少ないのが一番のネックやと思う」と社長さんは言いました。8日増やすだけでも、求人票に書ける数字は変わります。経営の判断としては、私もいい方向だと思いました。
ただ、ひとつだけお伝えしたことがあります。年間カレンダーを書き換えると、残業代の1時間あたりの単価が自動的に変わります。そして単価が変わると、固定残業手当が何時間分をカバーしているかまで変わります。カレンダーを決めた人と、給与計算をしている人が別だと、この連鎖に誰も気づかないまま1年が過ぎます。
今日はこの連鎖について、経験に基づく私の持論をお話しします。
目次
目次
- 相談の概要
- 年間カレンダーが残業単価の分母を決めている
- 年間休日を8日増やすと残業単価は57円上がる
- 固定残業手当がカバーする残業時間は減る
- 規程・契約書・給与ソフトをそろえ、届け出る
- 増える金額を出してから、社長が決める
- 年間休日120日なら採用で戦える
- よくある質問
- まとめ
相談の概要
この会社の今年度のカレンダーは、年間休日が112日でした。1日の所定労働時間は8時間、年間の所定労働日数は253日。掛け合わせると、年間の所定労働時間は2,024時間です。この2,024時間が、残業代と欠勤控除の土台になります。
来年度の案は、土曜日の出勤を減らして、年間休日を120日にするというものでした。所定労働日数は245日に減ります。年間の所定労働時間は2,024時間から1,960時間へ、64時間短くなります。
社長さんがこの案を作った理由は、はっきりしていました。製造も配送も人が足りない。求人を出しても応募がない。年間休日112日と書いてある求人票では、若い人の目に留まらない。社長さんはそう感じていました。だから休みを増やして、採用で戦えるようにしたい。筋の通った判断です。
ここまでは、休みを増やす話でした。私が「このカレンダーで決めると、残業代と固定残業手当の計算が変わりますよ」とお伝えすると、社長さんは「え、休みの話じゃないんですか」と言いました。総務を担当している事務員さんも、同じように驚いていました。私が支援している会社を見ていても、年間カレンダーと給与計算がつながっていると知っている経営者は、半分もいません。休みの話は総務や現場の責任者と、給与の話は経理や社労士と、別々の場で別々のタイミングで話しているので、この2つが1本の線でつながっていることに気づく機会が、そもそもないのだろうと思います。
年間カレンダーが残業単価の分母を決めている
残業代は、1時間あたりの賃金額に、残業した時間数と割増率を掛けて出します。では、その1時間あたりの賃金額は、月給を何で割って出すのでしょうか。原則は、その月の所定労働時間数です。ただし月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1か月平均所定労働時間数で割ることになっています(労働基準法施行規則第19条第1項第4号)。
カレンダーで月ごとの所定労働日数が変わる会社は、ほとんどがこの「ただし」の場合に当てはまります。そして1か月平均所定労働時間は、年間の所定労働時間を12で割って出します。毎日同じ時間数で働く会社なら、年間の所定労働時間は、年間の所定労働日数に1日の所定労働時間を掛けて求められます。この年間の所定労働日数を決めているのが、ほかでもない年間カレンダーです。カレンダーを作り直す作業は、同時に残業単価の分母を書き換える作業です。
欠勤控除でも、同じ分母を使っている会社が多くあります。多くの会社の賃金規程は「1時間あたりの賃金額に、欠勤した時間数を乗じた額を差し引く」という書き方をしていて、その1時間あたりの賃金額も1か月平均所定労働時間で割って出すからです。ただし欠勤控除の計算方法そのものに法律の定めはなく、当月の所定労働時間数で割ると書いている会社もあるので、まず自社の賃金規程を開いて確かめてください。
気づかれにくい理由は、はっきりしています。カレンダーと給与計算と賃金規程が、別々の人の手元にあるからです。カレンダーは総務か現場の責任者が作り、給与計算は経理が回し、賃金規程は何年も前に社労士が作ったきり誰も開いていない。どれも別の場所にあるので、1つを動かしても、残りは動かないまま取り残されます。
年間休日を8日増やすと残業単価は57円上がる
この会社の、基本給24万円の社員で計算してみます。割増賃金の基礎から除くことになっている手当(家族手当や通勤手当など)は付いていない前提です。ここは注意が必要で、扶養家族の人数や実際の通勤費に関係なく一律で支給している家族手当・通勤手当は、名称が同じでも算定の基礎に入ります(労働基準法第37条第5項、同法施行規則第21条)。手当の名前で除けるわけではありません。
割増率は、法定の時間外労働が2割5分以上で、1か月60時間を超えた部分は5割以上です。法定休日の労働は3割5分以上、深夜の労働はさらに2割5分以上が加算されます。以下は、1か月60時間以内の時間外労働として1.25で計算します。自社の賃金規程がこれより高い率を定めていれば、その率になります。
また、1時間あたりの金額に円未満の端数が出たときは、50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げる処理が認められています(昭和63年3月14日基発第150号)。これは割増賃金の計算について認められた取扱いなので、残業単価はこの方法で出します。
今年度のカレンダーなら、年間所定労働時間は2,024時間。12で割って、1か月平均所定労働時間は168.67時間です。24万円を168.67時間で割ると1,423円。これに1.25を掛けて、残業単価は1,779円になります。
来年度の案では、年間所定労働時間が1,960時間、1か月平均所定労働時間は163.33時間に減ります。24万円を163.33時間で割ると1,469円。1.25を掛けて1,836円です。残業1時間あたり57円、単価が上がります。月に20時間残業する社員なら、1か月で1,140円、1年で13,680円。給料の額面はまったく変えていないのに、残業代が静かに増えます。年間休日を減らす会社では、同じ式で単価が下がります。
欠勤控除も同じように動きます。1日欠勤したときに引く額を、1時間あたりの賃金額に8時間を掛けて出すなら、今年度は11,383円、来年度は11,755円。1日休んだときに引かれる額が、372円増えます。ここで1つ注意があります。欠勤控除の計算方法そのものに法律の定めはありませんが、実際に働かなかった時間を超えて控除することは、賃金の全額払いの原則に反して違法です(昭和63年3月14日基発第150号)。規程に書けば自由に切り上げてよい、という話ではありません。
固定残業手当がカバーする残業時間は減る
ここからが、私がいちばん怖いと思っている話です。固定残業手当を払っている会社では、単価が上がると、手当の金額を1円も触っていないのに、カバーできる残業時間だけが勝手に減ります。
先に前提を書いておきます。固定残業手当が割増賃金の支払いとして認められるには、通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金にあたる部分が判別できること、そして固定残業手当が法定の割増賃金額を下回るときに差額を払うこと、この2つが必要です(医療法人康心会事件・最高裁平成29年7月7日判決)。しかも対価性は契約書の文言だけで決まるわけではなく、会社の説明や実際の労働時間の状況も踏まえて判断されます(日本ケミカル事件・最高裁平成30年7月19日判決)。なお、ここでいう「何時間分」は固定残業時間のことで、事業場外労働や裁量労働制の「みなし労働時間制」とは別の制度です。
この会社の基本給24万円の社員に、30時間分の固定残業手当を付けていたとします。今年度の単価は1,779円なので、手当は53,370円。雇用契約書にも賃金規程にも「30時間分」と書きます。基本給と手当が分かれていて、金額と時間数が対応しているので、ここまでは判別できる状態です。
来年度、年間休日が8日増えて単価が1,836円になりました。手当の53,370円はそのままです。すると53,370円は、1,836円で割って29.07時間分にしかなりません。契約書には30時間分と書いてあるのに、実際に払っているのは29.07時間分、ということになります。
では、その社員が毎月30時間残業していたらどうなるか。本来払うべき額は1,836円×30時間で55,080円。払っているのは53,370円。差額の1,710円が、毎月の未払い残業代になります。年間で20,520円。これが固定残業手当を受け取っている社員の人数分だけ積み上がり、しかも給与ソフトは何も言わずに計算を続けます。
やっかいなのは、30時間を超えた分を正しく払っても、この穴が消えないことです。起点が30時間のままなので、残業が30時間でも35時間でも、ずれた0.93時間分、つまり1,710円が毎月そのまま残り続けます。気づいた人の分だけ手計算で直しても、直しきれません。
私がこれまで見てきた中で、固定残業手当の不足は、気づくのがいつも遅れます。誰も痛みを感じないからです。社員は手当の額しか見ていませんし、会社は手当を払っているつもりでいます。表に出るのは、たいてい退職した社員から過去分を請求されたときです。退職手当を除く賃金の請求権の消滅時効は、当分の間3年とされています(労働基準法第115条、附則第143条第3項)。退職手当だけは5年です。つまり請求されたときには、最大で3年分がまとめてやってきます。
規程・契約書・給与ソフトをそろえ、届け出る
では、どう防ぐか。私は会社の仕組みを、制度やルールというハードと、日々の対話や説明というソフトの両輪で考えています。カレンダーの作り直しも、片方だけでは終わりません。まずハード、つまり制度の面です。カレンダーを確定させた直後に1か月平均所定労働時間を計算し直し、次の3つをそろえてください。
- 賃金規程(割増賃金と欠勤控除の計算式、固定残業手当の金額と固定残業時間)
- 雇用契約書(1日の所定労働時間、年間の所定労働日数、固定残業手当の金額と固定残業時間)
- 給与ソフトの設定(1か月平均所定労働時間の数字)
とくに3つ目の給与ソフトは要注意です。導入したときの数字がそのまま残っていることが多く、カレンダーだけ毎年作り直して、給与ソフトの設定は3年前のまま、という会社を何度も見てきました。給与ソフトは、設定された数字で淡々と計算し続けます。間違った分母でも、エラーは出ません。
計算し直すタイミングは、年に1回、カレンダーが固まった日です。カレンダーは毎年変わりますし、うるう年は366日になるので、増えた1日が休日に当たらなければ所定労働日数が1日増えます。毎年やり直すしかありません。
休日を変えるなら、手続きも必要です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、休日は就業規則の絶対的必要記載事項です。年間休日を112日から120日に変えるなら、就業規則を変更し、過半数労働組合(なければ、投票などの適正な手続で選んだ労働者の過半数を代表する者)の意見を聴いて、その意見を記した書面を添えて労働基準監督署に届け出ます(労働基準法第89条・第90条、同法施行規則第6条の2)。休みを増やす場合でも、この届出は必要です。
次はソフト、つまり対話の面です。休みが8日増えたぶん、仕事をどう回すかを、現場と一緒に決めてください。カレンダーだけ配って「来年から休みが8日増えます」で終わると、現場は同じ量の仕事を245日に押し込むことになります。そうなると、増やしたはずの休みが持ち帰り仕事とサービス残業に変わって、採用のために休みを増やした意味がなくなります。何をやめるのか、何を機械に任せるのか、どこを別の人に渡すのか。ここを決めずにカレンダーだけ先に配る会社が、本当に多いのです。
増える金額を出してから、社長が決める
ここまで書いてきたことを、私はいつもこう整理してお伝えしています。年間休日を何日にするかは、採用の判断であると同時に、人件費の判断です。片方だけ見て決めると、必ず後から「こんなはずじゃなかった」が出てきます。
休みを増やすと、人件費は二段階で効いてきます。1つ目は、残業が増えることです。月給は変わらないのに1人あたり64時間分の労働力が減るので、その分を残業で埋めることになります。ただし時間外労働には上限があり、36協定の限度時間は1か月45時間・1年360時間です(労働基準法第36条第4項)。残業で埋める前に、いまの残業時間が上限にどれだけ余裕があるかを確認してください。
2つ目は、その残業の単価が上がることです。1時間あたり1,779円だったものが1,836円になります。これとは別に、固定残業手当を30時間分に直すなら、手当そのものが1人あたり月1,710円、年20,520円増えます。
だからやめましょう、という話ではありません。やるなら、いくら増えるのかを先に全部出してから決めてください、という話です。この会社では、残業の実績から年間でおよそいくら増えるかを一緒に計算しました。残業の実績がある社員を仮に全員・月15時間として、57円 × 15時間 × 40名 × 12か月で、年間およそ41万円。これは単価が上がる分だけの概算で、基本給が違えば1時間あたりの差額も変わりますし、固定残業手当の是正分は別に積み上がります。その金額を見た社長さんは「それくらいで人が採れるなら、ええわ」と即答されました。
金額を知ったうえで決めた社長は、あとで迷いません。逆に、金額を知らないまま決めた社長が、年度の途中で「やっぱり土曜を戻せないか」と言い出します。ところが、一度増やした年間休日を減らすのは簡単ではありません。労働契約法第9条は、会社が労働者の合意なしに、就業規則を変更して不利益な条件に変えることはできない、と定めています。合意が得られない場合でも、変更後の就業規則を周知し、変更の内容が合理的だと認められれば変更できる余地はありますが(同法第10条)、休日のような基本的な労働条件では、合理性が認められにくいとされています。来年戻すかもしれない、という前提で増やさないでください。
年間休日120日なら採用で戦える
では、8日増やすと、世の中の中でどの位置になるのか。厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、令和6年1年間の年間休日総数は、1企業平均が112.4日、労働者1人平均が116.6日で、いずれも昭和60年以降で最も多くなっています。この会社と同じ30〜99人規模に絞ると、1企業平均は111.2日です。なお、この調査でいう年間休日総数に年次有給休暇は含まれません。
つまり今年度の112日は、同じ規模の平均とほぼ同じ。可もなく不可もない数字です。120日にすると、全体の1企業平均112.4日も、労働者1人平均116.6日も上回ります。求人票に並んだとき、はじめて目に留まる数字になります。
私は採用定着の支援をしていて、求人票で最初に見られる項目は給与と休日だと感じています。給与は同業他社と大きく変えられませんが、休日は会社の判断で動かせます。しかも「年間休日120日」なら、応募者が自分で計算しなくても1年の休みの量がそのまま伝わります。求人票の中で、とても伝わりやすい一行です。採用にかける費用を増やす前に、まずここを動かせないかを考えてほしいと思っています。
あわせて、固定残業手当の金額や時間数を直したら、求人票の表示も直してください。若者雇用促進法に基づく指針では、固定残業代を採用する場合、固定残業代を除いた基本給の額、固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨、この3つを明示することとされています。手当だけ直して求人票が古いままだと、せっかく整えた中身が応募者に伝わりません。
よくある質問
Q. 固定残業手当の金額を据え置いたまま、契約書の「30時間分」を「29時間分」に直してもよいですか?
A. 直せます。むしろ、直すべきです。金額が同じでも、超過分の支払いが始まる起点が1時間前倒しになるので、社員が受け取る額は減りません。30時間残業した月で比べると、「30時間分」のままなら53,370円で1,710円足りませんが、「29時間分」に直せば53,370円に超過1時間分の1,836円が加わって55,206円になり、法定額の55,080円を満たします。不利益変更ではなく、記載を実態に合わせる是正です。ただし、賃金規程に時間数を書いているなら規程の変更と届出が必要ですし、求人や採用のときに「30時間分」と説明していたなら、その説明との整合も取ってください。私は、単価が上がった原因が会社のカレンダー変更にある以上、手当を55,080円に増やして30時間分を維持するほうをおすすめしています。
Q. 1日の所定労働時間が7.5時間と8時間で混ざっている会社は、1か月平均所定労働時間をどう計算しますか?
A. 日ごとの所定労働時間を全部足して年間の所定労働時間を出し、それを12で割ってください。所定労働日数に1日の所定労働時間を掛ける方法は、毎日同じ時間数の会社でしか使えません。7.5時間の日と8時間の日が混ざっているのに掛け算で済ませると、ずれた分母のまま1年間、残業代も固定残業手当も計算し続けることになります。
まとめ
この会社には、年間休日を120日にすることに賛成したうえで、残業単価と固定残業手当がいくら動くかを先に計算してお見せしました。社長さんは金額を見たうえで、予定どおり120日で進めると決めています。
年間カレンダーは、休みの表ではなく、賃金の計算式です。何日休みにするかを決めることは、残業1時間がいくらになるかを決め、固定残業手当が何時間分をカバーするかを決めることと同じです。来年度のカレンダーを作る前に、いま使っている1か月平均所定労働時間が何時間なのか、そして固定残業手当がいま何時間分になっているのかを、給与ソフトと雇用契約書の両方を開いて確かめてみてください。今年度のカレンダーと合っていなければ、そこが出発点です。
「これって違法?」「トラブルになる前に相談したい」——そのタイミングが一番大事です。
姫路の中小企業の現場を知る特定社労士が、一緒に整理します。

