先日ご相談いただいた、建設業のある企業の話です。施工管理の有資格者クラスを採用しようと、人材紹介会社に声をかけたところ、提示された条件に社長が絶句したそうです。
- 状況:施工管理の有資格者クラスを人材紹介経由で採用しようと打診
- 提示された条件:成功報酬は年収の60〜70%
- 市場の動き:企業同士が「優先して紹介してもらうため」に報酬を80%まで引き上げる動きも出ている
- この企業が現状許容できる水準:年収の30〜35%程度
つまり、市場相場と自社が出せる金額の間に、2倍以上の開きがあったわけです。「紹介してもらえるだけありがたい」と言われていた時代は、もう終わりつつあります。今は紹介会社の側が「どこに優先的に紹介するか」を選ぶ時代。そして選ばれるための競争が、報酬という形で過熱しています。
この話、建設業に限った話ではありません。施工管理・整備士・介護福祉士・ITエンジニアなど、有資格者・専門職の採用に人材紹介を使っている中小企業なら、遅かれ早かれ同じ壁にぶつかります。今日は「なぜここまで相場が上がったのか」「人材紹介に頼らずに採用する道はあるのか」を、一緒に整理していきます。
目次
目次
- なぜ人材紹介の成功報酬はここまで上がったのか
- 「優先して紹介してもらう」ための報酬引き上げ競争という罠
- 紹介会社頼みから抜け出す、自社採用力という選択肢
- 明日から着手できる、具体的な打ち手
- 相場は「一度知って終わり」ではなく定点観測するもの
なぜ人材紹介の成功報酬はここまで上がったのか
人材紹介の成功報酬は、一般的に年収の30〜35%が相場と言われてきました。ところが今、有資格者クラスや専門職の採用となると、60〜70%という数字が普通に提示される場面が増えています。理由はシンプルです。紹介できる人材そのものが絶対的に不足しているからです。
紹介会社にとって、成約1件あたりの単価が上がれば上がるほど、少ない紹介数でも売上が立ちます。企業側の「なんとか採用したい」という切実さにつけ込んでいるわけではなく、需要と供給の力学として、自然にそうなっているだけです。ただ、それを承知の上で、経営者としてどう向き合うかは別の話です。
「優先して紹介してもらう」ための報酬引き上げ競争という罠
さらに厄介なのが、企業側が「他社より先に紹介してもらいたい」という理由で、自ら報酬を吊り上げる動きです。市場では成功報酬80%まで引き上げるケースも出てきていると聞きます。
気持ちはよくわかります。人が足りない、今すぐにでも欲しい。だから少しでも優先順位を上げたい。しかしこれは、体力のある大企業ほど有利になる消耗戦です。中小企業がこの土俵で真正面から戦い続けると、採用コストだけが膨らみ、肝心の定着や育成にかけるべき原資が削られていきます。
私がいつも申し上げているのは「採用より定着が先」ということです。高い報酬を払って人材紹介で1人採れたとしても、その人が定着する仕組みがなければ、また同じ報酬を払って次を探すことになります。紹介会社への報酬引き上げ競争に付き合う前に、そもそも自社は「選ばれる会社」になれているか、一度立ち止まって考える価値があります。
紹介会社頼みから抜け出す、自社採用力という選択肢
先ほどの企業では、人材紹介一本足打法から脱却し、自社の採用力そのものを強化する方針に切り替えました。具体的には、求人サイトへの原稿改善や、学校との関係構築といった「自社チャネル」への投資です。
ここで大事なのは、自社採用力はハード(制度・仕組み)とソフト(対話・関係構築)の両輪で成り立つということです。求人原稿を磨く、採用チャネルを整えるというのは仕組みの話。一方で、学校の先生や候補者本人と直接顔を合わせ、信頼関係を積み重ねていくのは対話の話です。仕組みだけ整えても心が動きませんし、対話だけ頑張っても土台となる原稿や導線が弱ければ応募にはつながりません。両方が噛み合って、初めて「紹介会社を介さなくても人が来る」状態に近づきます。
人材紹介を完全にゼロにする必要はありません。むしろ緊急時の選択肢として残しておく価値はあります。ただ、それを「唯一の採用手段」にしてしまうと、相場の変動に自社の採用計画そのものが振り回されることになります。
明日から着手できる、具体的な打ち手
では具体的に何から手をつければよいのでしょうか。優先順位をつけるならこの順です。
- 求人原稿の見直し:抽象的な「アットホームな職場です」ではなく、実際の仕事内容・1日の流れ・待遇を具体的に書く
- 自社採用チャネルへの投資:求人サイト・自社採用ページなど、紹介会社を介さず直接応募が来る導線を強化する
- 学校との関係構築:専門学校・工業高校などと日頃から接点を持ち、就職担当の先生に「顔が見える会社」として認知してもらう
- 候補者との対話の質を上げる:面接を選考の場だけでなく、候補者が会社を見極める場と捉え、率直な対話をする
どれも即効性のある魔法ではありません。ただ、紹介会社への報酬を毎年払い続けるのと、自社の採用基盤に投資するのとでは、3年後・5年後の姿がまったく変わってきます。
相場は「一度知って終わり」ではなく定点観測するもの
人材紹介の相場は、今後も変動していきます。今回ご紹介した企業も「相場は今後も見ていく」という方針を取っています。一度調べて終わりではなく、半年に一度、年に一度でも構いませんので、自社の業種・職種における相場感を確認しておく習慣を持つことをおすすめします。相場を知らないまま提示された金額に驚き、その場の勢いで契約してしまうのが、一番もったいないパターンだからです。
よくある質問
Q. 人材紹介を使わずに、有資格者クラスの採用は本当に可能ですか?
A. 可能ですが、時間がかかることは前提にしてください。人材紹介は「今すぐ欲しい」に応える即効性が強みですが、自社採用チャネルは育つまでに半年〜1年程度かかることが多いです。だからこそ、緊急の採用は人材紹介、中長期の採用基盤は自社チャネルという形で、両方を並行して育てていくのが現実的です。どちらか一方に賭けるのではなく、使い分ける発想が大切です。
Q. 人材紹介会社に「報酬をもう少し下げてほしい」と交渉してもよいのでしょうか?
A. 交渉自体は問題ありません。ただし、相場を知らずに感覚だけで交渉すると、根拠のない値下げ要求に見えてしまい、優先順位を下げられるリスクもあります。まずは自社の業種・職種の相場を把握したうえで、「この職種であれば◯%が一般的だと理解している」と根拠を示して話すほうが、対等な交渉になりやすいです。
まとめ
人材紹介の成功報酬相場は、確実に上がっています。企業間の「優先して紹介してもらうための報酬引き上げ競争」も現実に起きています。この流れに真正面から付き合い続けるのは、体力のある大企業でも簡単ではありません。ましてや中小企業であれば、なおさらです。
大切なのは、人材紹介を完全に手放すことではなく、「頼りきらない」体制をつくることです。求人原稿や採用チャネルという仕組み(ハード)と、候補者や学校との対話・関係構築(ソフト)の両輪を整えることで、紹介会社の相場変動に一喜一憂しない採用基盤ができていきます。
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筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年7月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

