社員がAIに「会社の情報」を入力したら?——情報漏えいリスクとAI規程の関係を姫路の社労士が解説

社員がAIに「会社の情報」を入力したら?——情報漏えいリスクとAI規程の関係を姫路の社労士が解説




「悪気はなかった」——それが一番怖い。

情報漏えいを起こす社員の多くは、意図的ではありません。
「便利だから使った」「早く仕事を終わらせたかった」——そんな日常の延長で、会社の大切な情報がAIに渡ってしまう。

この記事では、AIによる情報漏えいがどうやって起きるのか、そして会社として何を準備しておくべきかを解説します。


目次

  1. 「悪意のない情報漏えい」が起きるメカニズム
  2. AIサービス別・学習データ利用ポリシーの違い
  3. 入力してはいけない情報の具体的リスト
  4. 違反した社員への対応——懲戒規定との連動
  5. 「禁止」だけでは守られない理由
  6. よくある質問
  7. まとめ

「悪意のない情報漏えい」が起きるメカニズム

こんなシーンを想像してみてください。

営業担当のA社員が、取引先への提案書を作ることになった。
締め切りが迫っている。
「ChatGPTで叩き台を作ろう」と思い、取引先の社名・課題・予算感をそのままコピー&ペーストしてプロンプトに入力した。
10分で提案書の骨格ができた。効率的だと思った。

A社員に悪意はありません。でも、取引先の機密情報がAIサービスのサーバーに送信された事実は変わらない。

こうした「悪意のない情報漏えい」が起きる構造はシンプルです。

  • 社員がAIの便利さを知る
  • 使い方のルールがない
  • 「これくらいなら大丈夫」という個人判断で動く
  • 会社の情報がAIに流れる

ルールがない会社では、この流れが毎日どこかで起きていると思ってください。


AIサービス別・学習データ利用ポリシーの違い

AIサービスによって、入力データの扱いは異なります。
主要ツールのポリシーを整理します。

ChatGPT(OpenAI)

無料版(ChatGPT Free)は、デフォルトで入力データがモデルの改善に使われる可能性がある。設定でオプトアウトできるが、多くの社員は知らない。有料の「Team」「Enterprise」プランではデータが学習に使われない設定が可能。

Gemini(Google)

個人アカウントでの利用では会話データが保存・レビューされる場合がある。Google Workspaceとの連携により、Googleドライブ内のファイルにアクセスできるケースもある。ビジネス向けプランでは保護設定が強化される。

Claude(Anthropic)

安全性重視の設計で知られる。無料版でも入力データの学習利用について明確な方針を示している。ビジネス利用にはClaudeのTeam・Enterpriseプランの確認を推奨。

Microsoft Copilot

Microsoft 365のビジネスプランではデータ保護が約束されている。ただし、個人アカウントで使うCopilot(無料版)は別の扱いになる。会社がMicrosoft 365を契約していても、社員が個人アカウントでCopilotを使っているケースに注意。

重要なのは「会社が契約しているプランかどうか」です。
同じChatGPTでも、無料の個人アカウントと、会社契約のTeamプランでは、データの扱いが全く異なります。


入力してはいけない情報の具体的リスト

AI利用規程に必ず入れておきたい「入力禁止情報」の具体的なリストです。

  • 個人情報:顧客・社員の氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日
  • 取引情報:取引先の社名・担当者名・契約金額・契約内容
  • 未公開情報:新製品・新サービスの情報、事業計画、M&A関連情報
  • 財務情報:売上・利益・給与・評価データ
  • 認証情報:ID・パスワード・APIキー
  • 法的情報:訴訟・クレーム・労務トラブルの詳細

これをリスト化して社員に配布するだけで、リスクは大幅に下がります。
「なんとなく機密情報はダメ」ではなく、具体的に書くことで「自分事」になるのです。


違反した社員への対応——懲戒規定との連動

「もし社員がルールを破ってAIに情報を入力したら、どう対応するか」
これを事前に決めておく必要があります。

ここで重要な社労士の視点をお伝えします。
AI利用規程があっても、就業規則に懲戒規定が連動していなければ処分できません。

懲戒処分には「就業規則に根拠があること」が必要です。
「AI利用規程に違反した行為は、就業規則第○条の懲戒事由に該当する」という形で、両方の文書をつなげる必要があります。

違反の程度によって対応は変わりますが、一般的には以下のような段階があります。

  • 注意・指導(軽微な違反・初回)
  • 始末書の提出
  • 訓戒・けん責
  • 減給・出勤停止(重大な情報漏えいの場合)
  • 懲戒解雇(故意・悪質な場合)

大切なのは、処分の前に「なぜルールを破ったか」をきちんと聞くこと。
一方的な処分は、かえってトラブルになります。


「禁止」だけでは守られない理由

「入力禁止リストを渡して終わり」では不十分です。

人は「なぜダメなのか」が分からないと、ルールを守りません。
特に「便利なのに使えない」という状況では、理由が腹落ちしているかどうかで守られ方が全然違うのです。

社員に伝えるべきことは2つ。

  • 「会社の情報がどこに行くか」を具体的に説明する:「AIサービスのサーバーに送信される」「学習データになる可能性がある」など
  • 「もし漏れたらどうなるか」をリアルに伝える:取引先からの信頼失墜、損害賠償リスク、場合によっては社員本人にも責任が問われることなど

ハード(規程・禁止リスト)とソフト(なぜ必要かの説明・対話)の両輪があってこそ、情報漏えいは防げます。


よくある質問

Q. 社員が個人のスマホでAIを使っている場合も規制できますか?

A. 業務に関連する情報の取り扱いであれば、就業規則や情報管理規程で規制できます。「業務上知り得た情報を私的なAIツールに入力することを禁じる」という形で明記することが有効です。ただし、プライベートな端末の利用まで全て禁止することは難しいため、「業務情報の入力禁止」というアプローチが現実的です。

Q. 情報漏えいが起きてしまったら、まず何をすべきですか?

A. まず事実確認(何を、いつ、どのAIに入力したか)を行い、個人情報が含まれる場合は個人情報保護委員会への報告義務が発生する可能性があります。取引先への報告が必要かどうかも速やかに判断が必要です。こうした対応フローを事前に決めておくことが大切です。


まとめ

AIによる情報漏えいの多くは、悪意のない「日常の延長」から起きます。
だからこそ、ルールと説明の両方が必要です。

入力禁止情報を具体的にリスト化すること。
「なぜダメか」を社員が腹落ちできるよう伝えること。
違反した場合の対応を就業規則と連動させておくこと。

この3つが揃って、初めて情報漏えいリスクをコントロールできます。
規程を作ることがゴールではなく、「社員が正しく動ける環境を作ること」がゴールです。

「AIって結局何から始めればいい?」——その答え、一緒に見つけましょう。
姫路の中小企業の現場に合った生成AI活用を支援します。

筆者プロフィール

泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー

姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。

「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。

支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。

生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。