せっかく採用した人が、入社して半年もたたずに辞めていく。姫路の中小企業経営者から、この相談を受けない月はない。
原因を突き詰めていくと、たいてい入社直後の対応に行き着く。離職の芽は、入社から最初の90日間に出ることがほとんどだ。新卒でも中途でも変わらない。この90日をどう設計するかで、定着率は大きく変わる。
今日は、その90日間を3つのフェーズに分けて、具体的な設計の仕方を伝えたい。
目次
目次
- フェーズ1(1〜30日):業務より先に「居場所」を作る
- フェーズ2(31〜60日):小さな「できた」を積み重ねる
- フェーズ3(61〜90日):本人の言葉で振り返らせる
- ハード×ソフトで90日を仕組み化する
- よくある質問
フェーズ1(1〜30日):業務より先に「居場所」を作る
入社直後の社員が最初にぶつかる壁は、業務の難しさではない。「誰に何を聞けばいいか分からない」という、ごく単純な不安だ。
この最初の30日で放置された経験は、本人の中に「この会社は自分を気にかけていない」という印象として残り続ける。業務を丁寧に教えることと同じくらい、「困ったときに聞ける相手」を最初に明確にしておくことが重要だ。
実際に、姫路市内のある金属加工業の経営者から聞いた話がある。中途採用したベテランの作業者を現場に配属したところ、最初の1週間、誰も彼に話しかけなかったという。技術はあるので「放っておいても大丈夫だろう」と現場の判断で放置してしまったのだ。本人は後になって、「あの1週間が一番つらかった。技術より先に、自分がここにいていいのか分からなかった」と振り返っている。技術力があるかどうかと、心理的に安心して働けるかどうかは、まったく別の話だ。
具体的には、初日に「誰が・何を・どこまで教えるか」を一覧にした受け入れ計画を用意し、直属の上司だけでなく、休憩時間や雑談で話せる年齢の近い先輩を1人つけておくといい。業務指導とは別に、雑談ベースで様子を聞ける相手がいるだけで、新人が一人で不安を抱え込む時間は大幅に減る。姫路のように顔の見える範囲で事業をしている中小企業ほど、この「もう一人の窓口」を意図的に作る効果は大きい。
フェーズ2(31〜60日):小さな「できた」を積み重ねる
居場所ができたら、次は仕事の手応えを作っていく段階だ。ここで陥りがちなのが、「早く戦力になってほしい」という焦りから、いきなり難易度の高い仕事を任せてしまうことだ。
任せる仕事のサイズを意図的に調整し、「できた」という実感を本人の中に積み重ねさせること。それがこの時期の最優先事項になる。難しい仕事を早く任せることよりも、小さな成功体験を積ませることの方が、結果的に定着につながる。
姫路市内の飲食店を経営するある店主は、新しく入ったホールスタッフに、初日から満席の土曜夜のシフトを任せてしまい、1ヶ月で辞められた経験があるという。後から振り返ると、「早く一人前にしてあげたい」という善意が、結果的に本人を追い詰めていた。翌年、別のスタッフを採用した際は、最初の2週間は平日の空いた時間帯だけを任せ、レジ締めや在庫確認など、失敗してもリカバリーできる業務から少しずつ広げていった。この新人は半年たった今も現場に残っている。
任せる仕事は、あらかじめ難易度順に並べてリスト化しておくと判断がぶれない。「これは1週目でもできる」「これは1ヶ月目からでいい」と事前に線引きしておけば、現場の忙しさに引きずられて、いきなり高難度の仕事を渡してしまう事態を防げる。建設業や製造業であれば、安全に関わる作業ほどこの順序づけが命綱になる。焦って工程を飛ばした結果、事故や大きなミスにつながれば、本人の自信はさらに失われてしまう。
フェーズ3(61〜90日):本人の言葉で振り返らせる
ある歯科医院の院長は、90日面談で「特に問題ありません」としか答えなかった歯科助手が、その2週間後に突然退職を申し出た経験があるという。後から本人の友人づてに聞いた話では、業務量への不満をずっと抱えていたが、院長を前にして「わざわざ言うほどのことでもない」と飲み込んでしまっていたそうだ。
90日が近づいたら、面談の場を設ける。ここで大事なのは、会社側から一方的に評価を伝えることではなく、本人自身の言葉で振り返らせることだ。
「入ってみてどうだったか」「思っていたことと違った部分はあるか」。この問いかけによって、本人も気づいていなかった小さな違和感が言語化されることがある。その違和感を早期に拾えるかどうかが、退職の予兆をつかめるかどうかの分かれ目になる。面談の場そのものより、面談に至るまでの信頼関係の積み重ねが、本音を引き出せるかどうかを左右する。
効果的なのは、面談の冒頭で評価や指導の話から入らないことだ。「この90日で一番大変だったのはどんなことだった」というように、まず本人の体験そのものを尋ねる。評価者としてではなく、聞き手としてその場に座ることで、初めて本音に近い言葉が出てくる。そして出てきた違和感は、その場で否定したり言い訳したりせず、いったんそのまま受け止める。改善するかどうかの判断は、後でいくらでもできる。
ハード×ソフトで90日を仕組み化する
ハードの面では、90日間のオンボーディング計画表・チェックリストを作り、担当者の感覚任せにしないことが土台になる。誰が新人を受け入れても、同じ質の対応ができるようにしておく。
ソフトの面では、現場の先輩・上司が「気にかけている」と伝わる声かけの頻度と質が問われる。計画表があっても、声をかける人の熱量がなければ、新人には形式だけが伝わってしまう。
仕組み化というと大がかりに聞こえるかもしれないが、最初は簡易なチェックリスト1枚で構わない。1日目・1週間目・1ヶ月目・90日目のタイミングで「誰が」「何を」確認するかを表にまとめ、経営者自身がその進捗を月1回でも確認する。この経営者の関与そのものが、現場に「定着は片手間の仕事ではない」というメッセージとして伝わる。ハードの仕組みを作るだけで満足せず、それが実際にソフトの行動として現場で機能しているかを、経営者が定点観測する体制まで含めて「仕組み化」だと捉えてほしい。
よくある質問
Q. 専任の教育担当を置く余裕がない中小企業は、どうすればいいですか
A. 専任者を置けなくても、「誰に聞けばいいか」を明確にするだけなら今日からできる。担当を1人に固定する必要はなく、業務ごとに聞く相手を一覧にしておくだけでも、新人の不安は大きく減る。
Q. 90日の面談で、本音を話してもらえるか不安です
A. いきなり本音を引き出そうとしなくていい。まずは「聞く側が否定せずに受け止める」という姿勢を、面談の最初の数分で示すことが大切だ。安心して話せる空気ができれば、違和感は自然と出てくる。
Q. 中途採用のベテラン社員にも、同じように90日設計は必要ですか
A. むしろ経験者ほど手厚く必要になる。周囲が「経験者だから大丈夫」と気を遣わなくなり、結果的に新卒以上に孤立させてしまうケースが多いからだ。前職のやり方と現場のやり方の違いに戸惑っていても、プライドから自分で言い出せない社員も少なくない。経験の有無にかかわらず、90日間は「この会社のやり方」に適応する期間だと捉えて、同じように居場所づくりから始めるべきだ。
試用期間、何を試しているのか
試用期間という言葉のせいか、最初の90日を「見極めの期間」と捉えている経営者は多い。だが実際に見極められているのは、新人の適性以上に、会社側の受け入れ体制の方だ。最初の90日は、会社が定着を「作る」期間だ。居場所を作り、小さな成功を積ませ、本音を拾う。この3つを仕組み化できれば、離職の多くは防げる。
「また辞めた」「応募が来ない」——その悩み、仕組みで解決できます。
姫路の中小企業の採用定着を、一緒に仕組み化しましょう。
筆者プロフィール
泉 正道(Masamichi Izumi)|姫路の社会保険労務士
従業員100名以下の中小企業の伴走支援コンサルタント。C&Pいずみ社会保険労務士法人 代表。
採用定着士、特定社会保険労務士、生成AIアドバイザー。2026年8月現在、延べ100社以上の中小企業を支援。採用・定着・労務に関する相談は累計3,000件超(日々更新中)。
姫路を拠点に、中小企業の採用定着を「仕組み化(内製化)」する伴走支援を得意とする。
商工会、商工会議所、大手生命保険会社でのセミナー講師など、精力的に「事例」中心の情報発信をし続けている。
姫路の経営者様はもちろん、遠方の方もオンライン対応可能ですので、お気軽にご相談ください。

