昨夜、日本代表がブラジルに1−2で負けた。
先制点を奪って、全員で守って、あと少しで勝てたのに——アディショナルタイムの終了間際に逆転ゴールを許して終わった。
試合後、森保監督は涙ながらにこう語った。
「選手たちは全力を尽くしてくれた。勝利を届けられなかったのは監督の力が足りなかった。すみませんと伝えたい」
選手が失敗したわけじゃない。全員が出し切った。それでも届かなかった。その結果を、監督が引き受けた。
このシーンを見て、私は経営の話を考えていた。
「全力でやっても結果が出なかったとき、経営者は何を言うのか」という話ではなく、もっと深いところの話だ。
うまくいかなかった原因を分析する人は多い。でも、うまくいったときの理由を掘り下げる人は、驚くほど少ない。
今日はその話をしたい。
目次
目次
- 森保監督の涙が教えてくれたこと
- 中村俊輔が試合後に一人でやっていたこと
- 経営者が「失敗の分析」だけに偏る理由
- 「成功の再現性」を高める振り返りの習慣
- 私自身が毎月一人でやっていること
- よくある質問
- まとめ:今日の「うまくいったこと」を言語化しよう
森保監督の涙が教えてくれたこと
ブラジル戦の日本代表は、ボール保持率35%だった。シュート数も4本対8本で劣勢。数字だけ見れば、完敗に近い内容だ。
でも実際の試合は違った。全員が走り、守り、連動して、世界5位のブラジルを終了間際まで追い詰めた。佐野海舟のミドルシュートで先制し、決勝トーナメントの舞台で堂々と戦い抜いた。
試合後の森保監督の言葉が刺さったのは、「負けた理由を誰かに押しつけなかった」からだ。
選手は全力を出した。それを認めて、結果の責任は自分が引き受ける。
このリーダーの姿勢が、チームの「また頑張ろう」につながる。
経営でも同じだ。結果が出なかったとき、社員のせいにする経営者がいる。でも逆に、「俺の采配が足りなかった」と言える経営者のいる会社は、人が辞めにくい。社員が「失敗しても守ってもらえる」と感じた瞬間から、人は本気を出せるようになる。
これはハード(評価制度・就業規則)だけでは絶対に作れない文化だ。経営者自身の言葉と行動、つまりソフトの部分がなければ成立しない。
中村俊輔が試合後に一人でやっていたこと
元日本代表の中村俊輔選手を知っているだろうか。
左足から放たれる芸術的なフリーキックで、セルティックでもマリノスでも何度もゴールを奪ってきた日本サッカー史に残るレフティだ。
彼にはこんなエピソードがある。
試合中、「これは入る」と自分でも驚くような完璧なフリーキックが決まることがある。しかし彼は試合が終わった後、一人でピッチに残り、その感覚を何度も確認していたという。
「なぜ入ったのか?」
右足の踏み込みの角度だったのか。
左足の振り切る感覚が違ったのか。
腕の使い方?ボールまでの距離?
助走のリズム?
自身の著書「察知力」(幻冬舎新書)の中でも、彼は成功と失敗の両方をサッカーノートに書き続けたと述べている。うまくいった理由を言語化し、次に同じ状況が来たときに再現できるように体と頭に刻んでいく。
これが「再現性」だ。
失敗の分析は、失敗を減らすためのもの。
成功の分析は、成功を増やすためのもの。
どちらが大事かではなく、両方がセットであるべきなのに——経営の現場では成功の分析がほぼ行われていない。
経営者が「失敗の分析」だけに偏る理由
なぜ経営者は、うまくいかなかった原因は考えるのに、うまくいった理由を掘り下げないのか。
理由は単純だ。
「困っているから考える」のが人間だから。
採用がうまくいかない→原因を考える。
社員が辞めた→なぜ辞めたか分析する。
売上が下がった→何が悪かったか検討する。
これは正しい。でもその逆——
採用が決まった→「良かった、次いこう」で終わる。
定着率が上がった→「たまたまかな」で終わる。
業績が伸びた→「みんなが頑張ってくれたから」で終わる。
これでは再現できない。次に同じ状況が来ても、「なんとなくうまくいく」を期待するだけになる。
うまくいった採用には、必ず理由がある。
定着した社員には、定着した背景がある。
業績が伸びた時期には、伸びた構造がある。
それを言語化できた経営者だけが、組織を「仕組み」で動かせるようになる。
「成功の再現性」を高める振り返りの習慣
では具体的に何を振り返ればいいか。
シンプルに、この2軸で考えてほしい。
- 今月、うまくいったことは何か?
- なぜそれはうまくいったのか?
採用でいえば——
- 内定承諾率が高かった求人票と、そうでない求人票の違いは何か?
- 早期に辞めなかった社員と、すぐ辞めた社員の採用プロセスに違いはあったか?
- 面接で「ここが決め手だった」と入社した社員が言った言葉は何か?
定着でいえば——
- 長く働いてくれている社員は、どんな最初の3ヶ月を過ごしたか?
- 1on1やフォロー面談が功を奏したケースでは、何を話したか?
- 「辞めようと思ったけど踏みとどまった」社員が、踏みとどまった理由は何か?
これを積み上げることで、「うちの会社での採用・定着の成功パターン」が見えてくる。一般論ではなく、自社固有の型だ。
中村俊輔が「あのフリーキックが入ったのはなぜか」を言語化したように、経営者も「あの採用がうまくいったのはなぜか」を言語化する。それだけで、組織の再現性は大きく変わる。
私自身が毎月一人でやっていること
ここで少し自分の話をしたい。
私は毎月一回、一人で「振り返りの時間」を設けている。
テーマはシンプルだ。
- 今月、うまくいったことは何か?その理由は?
- 今月、うまくいかなかったことは何か?その原因は?
誰かと話すわけでもなく、会議でもなく、ひたすら自分と向き合う時間だ。
面白いことに——この振り返りに、これまで生成AIを使ったことが一度もない。クライアント支援では毎日のように生成AIを使っている私が、自分の振り返りだけは、ずっと一人でやってきた。
なぜかはっきり言語化できなかったが、最近こう思う。
「自分の感覚と正直に向き合う時間」は、効率化してはいけない部分かもしれない。
ただ、今後は「壁打ち相手」として生成AIを使ってみるのもありかもしれないと思っている。答えを出してもらうのではなく、「この成功、もっと深掘りするとしたら何が考えられる?」と問いかける相手として。
いずれにせよ、振り返る習慣そのものがなければ、何を使っても意味がない。ツールより先に、習慣だ。
よくある質問
Q. 振り返りといっても、何をどこに書けばいいかわかりません。
A. まずはノートでも、スマホのメモアプリでも、何でもいい。大事なのはフォーマットではなく「書く習慣」だ。最初は月1回、「今月うまくいったこと3つ」だけ書くところから始めてほしい。それだけで気づきが生まれる。慣れてきたら「なぜうまくいったか」を隣に書き足していく。続けることで自社の成功パターンが見えてくる。
Q. 採用がうまくいかない状況が続いています。成功体験がなくて振り返れません。
A. それは「採用がうまくいっていない」という大事な気づきだ。うまくいかないことの分析だけでなく、「過去にうまくいったとき(たとえ1人でも)」を掘り起こしてほしい。あの人は採用できた、あの時の面接はうまくいった——そこに必ずヒントがある。もし本当に成功体験がゼロなら、それは採用の「仕組み」ではなく「前提条件」から見直す必要があるかもしれない。そのときはぜひご相談を。
まとめ:今日の「うまくいったこと」を言語化しよう
森保監督は、全力を尽くした選手たちを讃え、結果の責任を自分が引き受けた。
中村俊輔は、完璧なフリーキックが決まった後、一人ピッチに残ってその感覚を言語化した。
どちらにも共通するのは、「感情で終わらせない」姿勢だ。
経営者の仕事も同じだ。
うまくいかなかった原因を分析するのは、当然やること。
でも、うまくいったときの理由を言語化することこそが、組織を次のステージに連れていく。
今日、あなたの会社で「うまくいったこと」はなかったか?
ちょっと立ち止まって、なぜうまくいったかを考えてみてほしい。
それが積み重なったとき、「仕組みで動く組織」が生まれる。
採用・定着の振り返りから何を見直せばいいかわからない——そう感じたら、ぜひ当社にご相談ください。
グループA(採用戦略 / 定着・離職防止)のCTA:
「また辞めた」「応募が来ない」——その悩み、仕組みで解決できます。
姫路の中小企業の採用定着を、一緒に仕組み化しましょう。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

