「ストレスチェックをやらなければならない。でも、どうやってやればいいの?」
義務の内容はわかった。でも次の壁は「実施方法」です。自分たちでやるのか、外に任せるのか。どれが自社に合っているのか。コストはいくらかかるのか。
この記事では、50人未満の中小企業が選べる3つの実施方法を正直に比較します。「どれが一番安いか」ではなく、「自社の規模・体制にどれが合うか」という視点で整理しました。
目次
目次
- 実施方法を選ぶ前に知っておくこと
- 方法① 厚労省の無料ツールで自社実施
- 方法② SaaSサービスを使う
- 方法③ 外部機関(社労士・産業保健機関)に委託する
- 3つの方法を比較する
- 結局、50人未満の中小企業にはどれが合うか
- よくある質問
- まとめ
実施方法を選ぶ前に知っておくこと
どの方法を選んでも、ストレスチェックの実施には必ず「実施者」の関与が必要です。実施者とは、医師・保健師・厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師または精神保健福祉士のことです。
自社にこれらの有資格者がいない場合(ほとんどの中小企業がそうです)、必ず外部の実施者と契約する必要があります。「自社でやる」とは「アンケートの配布・回収・集計を自社で行う」という意味であって、「実施者(医師等)も自社で用意する」という意味ではありません。この点を最初に正しく理解しておきましょう。
また、どの方法でも共通して必要なことがあります。
- 実施者(医師・保健師等)の関与
- 実施事務従事者の選任(人事権を持たない者)
- 個人情報の適切な管理・保存(最低5年)
- 高ストレス者への面接指導体制の確保
これらはどの方法を選んでも変わりません。方法によって「誰がどの部分を担うか」が変わるだけです。
方法① 厚労省の無料ツールで自社実施
厚生労働省は「ストレスチェック実施プログラム」を無料で提供しています。Excelベースのツールで、アンケートの配布から集計・判定まで対応しています。
メリット
- ツール費用がゼロ
- 自社のペースで進められる
- 外部との調整が少ない
デメリット・注意点
- Excelの操作に慣れていないと集計ミスが起きやすい
- データ管理・保管を自社で行う必要があり、担当者の工数が発生する
- 実施者(医師・保健師等)は別途確保が必要
- 高ストレス者への面接指導体制も自社で整える必要がある
- 個人情報漏洩のリスクを自社で管理しなければならない
「タダだから」という理由だけで選ぶのは要注意です。ツール費用はかからなくても、担当者の工数・管理の手間・ミスのリスクというコストは発生します。それを吸収できる体制があるかどうかが選択の分かれ目です。
向いている会社:担当者に十分な時間があり、Excelを使い慣れていて、実施者となる産業医との契約が既にある会社。
方法② SaaSサービスを使う
ストレスチェック専用のクラウドサービス(SaaS)が多数提供されています。従業員がスマホやPCでアンケートに回答し、集計・判定・結果通知まで自動で行われるものが多いです。費用は従業員1人あたり500〜2,000円程度が相場です。
メリット
- アンケートの配布・回収・集計が自動化されるため担当者の工数が少ない
- 従業員がスマホで回答できるため受検率が上がりやすい
- データが安全にクラウド管理される
- 集団分析レポートが自動生成されるサービスも多い
デメリット・注意点
- 費用が発生する(従業員数が増えるほどコスト増)
- サービスによって機能・品質に差がある
- 実施者(医師・保健師等)は別途確保が必要なサービスが多い
- 高ストレス者への面接指導体制は自社で整える必要がある場合も
サービス選びで最も確認すべきは、「実施者(医師・保健師等)がサービス内に含まれているかどうか」です。含まれていないサービスを選んだ場合、実施者を別途手配する必要があります。契約前に必ず確認してください。
向いている会社:ある程度のコストをかけてもよく、担当者の工数を最小限にしたい会社。従業員がIT機器に慣れている会社。
方法③ 外部機関(社労士・産業保健機関)に委託する
アンケートの配布・回収・集計・結果管理から、実施者の手配、高ストレス者への対応まで、一連の流れを外部機関にまるごと委託する方法です。
社会保険労務士は「実施事務従事者」として関与でき、実施者(医師・保健師等)と連携することで、ストレスチェックの実施をトータルでサポートする体制を組むことができます。
メリット
- 社内の工数がほぼゼロになる
- 実施者・実施事務従事者の問題が一気に解決する
- 個人情報管理のリスクを外部に移せる
- 就業規則の整備・面接指導の調整なども同時に相談できる
- 「社内の誰にも知られない」という従業員の安心感が最も高い
デメリット・注意点
- 委託費用が発生する
- 委託先との連携・情報共有の仕組みが必要
- 信頼できる委託先を見つける必要がある
特に、「社内に実施事務従事者になれる人がいない」という中小企業には、外部委託が最も現実的な選択肢です。前回の記事でも触れましたが、1人の従業員が総務・経理・人事・労務をすべて兼務している会社では、社内で役割分担することが構造的に難しいです。外に出す設計にすることで、この問題をまるごと解決できます。
向いている会社:担当者の工数を出せない会社。社内に実施事務従事者になれる人がいない会社。就業規則の整備も合わせて進めたい会社。
3つの方法を比較する
3つの方法を主要な観点で整理すると、以下のようになります。
- 【ツール費用】無料ツール:ゼロ / SaaS:1人500〜2,000円程度 / 外部委託:委託内容による
- 【社内工数】無料ツール:多い / SaaS:少ない / 外部委託:ほぼゼロ
- 【実施者の手配】無料ツール:自社で必要 / SaaS:サービスによる / 外部委託:委託先が対応
- 【実施事務従事者】無料ツール:社内で選任が必要 / SaaS:社内で選任が必要 / 外部委託:委託先が担える
- 【個人情報管理】無料ツール:自社管理 / SaaS:クラウド管理 / 外部委託:委託先が管理
- 【従業員の安心感】無料ツール:低め / SaaS:中程度 / 外部委託:高い
「費用が安い=自社に合っている」とは限りません。担当者の工数・リスク管理の負担・従業員の信頼感まで含めてトータルで判断することが重要です。
結局、50人未満の中小企業にはどれが合うか
正直に言います。50人未満の中小企業の多くには、外部委託が最も現実的です。
理由は3つあります。
一つ目は「人の問題」。実施事務従事者になれる社内人材がいないケースが多い。
二つ目は「時間の問題」。経営者も従業員も、年に1回とはいえ、アンケートの配布・回収・集計・記録保存に使える時間が限られている。
三つ目は「信頼の問題」。人数が少ない会社ほど、「誰が見ているか」が従業員にとって気になります。外部機関が管理することで、「会社には伝わらない」という安心感が生まれ、受検率と回答の正直さが上がります。
もちろん、コスト面での判断もあります。SaaSや無料ツールの方が安く済む場合もあります。ただし、「安い=自社に合っている」ではありません。実施が形骸化したり、高ストレス者への対応が後手になったりする方が、長期的には大きなリスクになります。
どの方法を選ぶにせよ、「実施して終わり」では意味がありません。ストレスチェックは、従業員のメンタルを守るための仕組みです。制度を機能させるための選択をしてください。
よくある質問
Q. 産業医がいない場合、どうすれば実施者を確保できますか?
A. 50人未満の事業場には産業医の選任義務はありません。実施者は、産業保健総合支援センター(都道府県に設置・無料相談あり)を通じて紹介してもらう方法や、外部の健康管理機関・医療機関と契約する方法があります。外部委託サービスや社労士に相談すれば、実施者の確保も含めてサポートしてもらえる場合があります。まずは「姫路産業保健総合支援センター」への相談から始めるのが現実的です。
Q. SaaSと外部委託を組み合わせることはできますか?
A. できます。たとえば「アンケートの配布・回収・集計はSaaSで行い、実施事務従事者と高ストレス者対応は社労士に依頼する」という形も可能です。どこを外部に出してどこを社内で担うかは、自社の体制に合わせて柔軟に設計できます。「全部外に出す」か「全部自社でやる」かの二択ではありません。
まとめ
実施方法の選択に正解はありません。ただ、自社の規模・体制・予算を正直に見た上で選ぶことが大切です。
- 人・時間・専門知識に余裕がある → 無料ツールやSaaS
- 担当者がいない・兼務で手が回らない → 外部委託
- コストを抑えつつ手間も減らしたい → SaaS+部分委託の組み合わせ
いずれを選ぶにしても、「実施者の確保」「実施事務従事者の選任」「高ストレス者への対応体制」の3点は必ず整えてください。この3つが揃っていない状態での実施は、形だけの義務対応になってしまいます。
当社では、実施方法の選定から実施事務従事者の役割まで、社労士がまるごとサポートするサービスを提供しています。「自社に何が合うかわからない」という段階からご相談ください。
参考リンク
厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」(無料実施プログラムのダウンロードはこちら)
URL:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

