2026年のFIFAワールドカップ。日本代表は、グループリーグを1勝2分・無敗で突破しました。
私もオランダ戦の後半、スウェーデン戦はゴールシーンを含めてテレビで観ていましたが、とにかく興奮しました。特にスウェーデン戦の後半は、相手の猛攻で「あ、やられるかも」という場面が何度もありました。それでも日本は崩れなかった。試合が終わったとき、思わず「耐えた!」と声が出ました。
このニュースを見て、私はこう思いました。
「これ、経営と同じだ」と。
「勝ち続ける組織」は理想です。でも現実には、そんな会社はほとんどありません。採用で一時的に人が増えても、また辞められる。売上が上がっても、職場の雰囲気は変わらない。
でも。
「人が辞めない組織」なら、中小企業でもつくれます。
それは地味です。華やかではありません。でも、負けない組織が、最後に生き残ります。
目次
目次
- 「負けなかった」日本代表から経営者が学べること
- 「人が辞めない」は、なぜ地味に見えるのか
- 辞めない組織をつくる「ハード」の仕組み
- 辞めない組織をつくる「ソフト」の関係性
- 「採用より定着が先」という信念
- よくある質問
- まとめ
「負けなかった」日本代表から経営者が学べること
今回の日本代表の戦い方を振り返ってみましょう。
- チュニジア戦:4-0で勝利
- オランダ戦:2-2で引き分け
- スウェーデン戦:1-1で引き分け
勝ち点5でグループ2位通過。勝ったのは1回だけ。でも、一度も負けていません。
スポーツでも経営でも、「強い」の定義はひとつではありません。毎試合圧勝することよりも、ピンチでも崩れずに踏みとどまることの方が、長期的には力になります。
経営で言えば、こういうことです。
- 採用で「毎月100人の応募が来る」なんて派手なことは起きない。でも、文化に合う人が1人、2人と着実に来てくれる
- 入社した人が前向きに、長く働いてくれる
- 新人が3年以内に辞める、なんてことも起きない
これを実現している会社は、外から見ると地味です。でも、10年後に生き残っているのは、だいたいこういう会社だと、私は確信しています。
「人が辞めない」は、なぜ地味に見えるのか
「人が辞めない組織をつくっています」と言っても、外からはなかなか気づかれません。
採用成功のような「入社した!」という瞬間の喜びがありません。昇給・ボーナスのような「数字で見える成果」もありません。離職がゼロでも、ニュースにはなりません。でも、それは「すごくない」のではなく、目立ちにくいだけです。
でも、人が辞めない組織は、静かに強くなっています。
ベテランが残れば、ノウハウが蓄積されます。新人が定着すれば、教育コストが下がります。チームの信頼関係が育てば、指示しなくても動ける組織になります。
これは、複利の力に似ています。目に見える変化は少ないですが、5年・10年で差が開きます。
逆に、「人が辞める組織」の消耗はすさまじいです。私が支援してきた中で、印象に残っているケースを2つ紹介します。
ひとつは、大手求人サイトに毎月20万円、年間240万円を支払い続けている中小企業です。採用できているかどうかに関わらず、広告費は毎月出ていきます。入社した人が定着せずにまた辞める。また広告を出す。その繰り返しです。
もうひとつは、医療法人です。紹介会社への手数料が年間2,000万円を超えていました。紹介で入職した人が辞め、また紹介会社に頼む。その度に手数料が発生します。2,000万円あれば、何ができるでしょうか。現場の設備投資、既存スタッフの処遇改善、いくらでも使い道があります。
どちらも共通していたのは、「定着しない根本原因」に手をつけていなかったことです。採用にお金をかけ続けていましたが、職場の環境や仕組みは変わっていませんでした。お金を垂れ流し続けているだけ、と言わざるを得ませんでした。
「地味でいい」は、消極的な言葉ではありません。地味に積み上げることが、経営における最大の戦略だと私は思っています。
辞めない組織をつくる「ハード」の仕組み
人が辞めない組織には、必ず「仕組み」があります。
ここで言う「ハード」とは、制度・ルール・評価の仕組みのことです。
① 就業規則が「守るためのもの」になっているか
多くの会社の就業規則は、作りっぱなしです。棚の奥で眠っています。これでは意味がありません。
就業規則は、「何をしたらアウトか」だけでなく、「何をしたら評価されるか」「困ったときはどこに相談するか」を示すものでもあります。社員が読んで、安心できる内容になっているか。そこを問い直していただきたいです。
② 評価制度が「なんとなく」になっていないか
「頑張っているのに評価されない」という不満が、離職のトリガーになることは多いです。
評価基準が曖昧だと、社員は「何をすれば認められるのかわからない」という状態に陥ります。それは不安であり、不満です。評価制度は、期待値を明示するツールでもあります。
③ 給与・労働条件が「後出し」になっていないか
入社後に初めて「残業が多い」「給与が思ったより上がらない」とわかる構造は危険です。
採用段階で見せる情報と、実際の労働条件にギャップがあると、定着は難しくなります。正直に開示することが、長く働いてくれる社員を集める近道です。
辞めない組織をつくる「ソフト」の関係性
制度だけでは、人は残りません。
就業規則を整えて、評価制度を作っても、「この職場にいたい」という気持ちがなければ意味がありません。ここで必要なのが「ソフト」、つまり対話・承認・関係性です。
① 「ありがとう」が飛び交っているか
大げさに聞こえるかもしれませんが、私が支援先で最初に見るのは「挨拶の質」です。
おはようと言い合えるか。ありがとうと言えるか。それだけで、職場の空気が変わります。定着しやすい職場は、承認の言葉が日常にあります。
② 1on1の場が設けられているか
「社員の本音を知っていますか?」と聞くと、多くの経営者は「なんとなくわかっている」と答えます。でも、実際には知らないことの方が多いです。
月1回でもいいです。マネージャーと部下が1対1で話す時間を設ける。成果の話だけでなく、「最近どう?」から始められるか。それだけで、早期離職のサインを拾える確率が上がります。
③ 本音が言える場所があるか
「社長に言いにくいことを、誰かに話せているか」。これが重要です。
言えない不満は、じわじわと蓄積します。ある日突然「辞めます」になる前に、話せる相手・場所を会社の仕組みとして用意できているか。それが定着の鍵になります。
就業規則や評価制度(ハード)は「守り」の仕組みです。1on1や承認(ソフト)は「つながり」の仕組みです。この両輪が噛み合って初めて、人は長く働き続けます。
「採用より定着が先」という信念
私がいつもクライアントに伝えていること。
「採用より定着が先です」
採用にお金をかける前に、今いる社員が辞めない環境を整えることが先決です。
なぜか。
定着できない職場に採用しても、無意味だからです。いくら良い人材を採用しても、職場環境が変わっていなければ、また辞めます。採用コストが2倍・3倍になるだけです。
一方で、今いる社員が「ここは居心地がいい」と感じている職場は、口コミで人が集まってきます。採用広告に頼らなくても、人が来ます。
日本代表の話に戻りましょう。
無敗でグループを突破した森保ジャパンは、決して万全の状態ではありませんでした。大会直前にはキャプテンが離脱し、エースの久保建英もケガで苦しみました。それでも崩れなかった。スター選手の穴を、組織の力で埋めました。全員が役割を果たせるチームを作っていたからです。
地味です。でも、それが強さの本質です。
中小企業の経営も、同じだと思います。スター社員に頼るのではなく、普通の人が力を発揮できる仕組みを作ること。それが定着する組織の正体です。
よくある質問
Q. 定着施策と採用施策、どちらから手をつければいいですか?
A. 絶対に、定着が先です。今いる社員が辞める環境のまま採用しても、コストが膨らむだけです。まず「なぜ辞めているのか」の原因を特定し、制度・環境・対話の面から手を打つことが先決です。定着の目処が立ってから、採用に力を入れてください。
Q. 小さな会社でも、1on1や評価制度は必要ですか?
A. 必要です。むしろ小さな会社こそ、一人が辞めたときのダメージが大きいです。社員が5人でも10人でも、話す場・評価の基準・感謝を伝える文化は意識的に作っていく必要があります。「うちは少人数だからアットホームでわかり合える」は思い込みです。関係性は、意図して作らないと生まれません。
まとめ
日本代表は、派手に勝ち続けたわけではありません。でも、一度も負けませんでした。
それが強さです。
組織も同じです。毎月採用できる会社よりも、人が辞めない会社の方が、10年後に強いです。
- 就業規則・評価制度などのハードを整える
- 1on1・承認・本音が言える場などのソフトを育てる
- 採用より定着を先に考える
この3つを地道に積み上げていくこと。それが「辞めない組織」をつくる唯一の方法です。
地味でいいです。負けなければ、いいです。
「うちの会社、なんで人が辞めるんだろう」と感じているなら、ぜひ当社にご相談ください。原因の特定から、制度づくり・対話の仕組みまで、一緒に考えます。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

