「褒めて伸ばす」という言葉は聞き飽きたかもしれません。ですが、承認には実は3つの階層があり、多くの会社は一番大事な土台部分を見落としています。給与でも評価制度でもなく、日々の「挨拶」がその土台だと言ったら、意外に感じるでしょうか。
目次
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承認には3つの階層がある
承認はピラミッド構造になっています。一番上にあるのが「結果承認」。売上や成約件数など、数字で出るか出ないかが分かりやすい部分です。その下にあるのが「プロセス承認」。工夫や努力、日々の取り組みを認める承認です。そして一番下、土台にあるのが「存在承認」。挨拶をする、名前を呼ぶ、「いてくれてありがとう」という気持ちを伝えることです。
Gallup社の調査によると、チーム間のエンゲージメントの差の70%はマネジャーの質に起因するとされています。日々のマネジメントの中で、この3階層の承認をどれだけ意識的に使い分けられているかが、部下の定着に直結しているということです。
Gallup Japanの調査では、日本の従業員エンゲージメントは世界平均21%に対してわずか7%と、世界最低水準にあると報告されています。「頑張っていることは分かっているつもりだけど、わざわざ言葉にしていない」という会社が、実は日本にはとても多いということです。承認は特別なスキルではなく、意識して言葉にするかどうかだけの差です。
一番大事なのは「結果」ではなく「存在」の承認
結果は出るか出ないか分かりません。プロセスも、まあまあ褒めることができます。しかし一番大事なのは、この土台の存在承認です。当たり前すぎると思われるかもしれませんが、これが驚くほどできていません。
失敗してその場で叱ることがあってもいい。ただし、次の日にはまた「おはよう」「お疲れ様」と声をかける。ここと、昨日叱ったことは関係ありません。存在承認は、どんな時でもしてあげるべきものです。いい加減な仕事に対して叱ることがあったとしても、挨拶だけは切らさない。「いてくれてありがとう」という気持ちを伝え続けることが大切です。
こうした承認は、離職率を下げ、モチベーションを高めると言われています。Gallup社の分析では、従業員エンゲージメントが上位25%の事業部門は、下位25%の事業部門よりも離職率が51%低いという結果が出ています(年間離職率40%以下の企業において)。コストをかけずに今日から始められる施策でもあります。
承認にも、やってはいけないことがある
とはいえ、承認にもやってはいけないことがあります。代表的なのが「比較」です。「〇〇さんはできているのに、あなたは」というような、他の社員と比較する形の声かけは避けるべきだと言われています。承認は、その人自身の変化や存在を認めるものであって、優劣をつけるためのものではありません。比較は、承認のつもりが逆にプレッシャーや不信感を生んでしまいます。
また、心理的安全性の観点も承認と深く関わっています。若手が的外れな発言をしたときも「なるほど、面白い視点だね」と受け止める。ミスを隠さず報告してくれたときも、叱るより先に「報告してくれてありがとう」と伝える。この積み重ねが「何を言っても大丈夫」という安心感を作り、結果的に離職の芽を早い段階で摘み取ることにつながります。
ショートウィン設計:小さな成功体験を、入社時から一緒に作る
承認と並んで大事なのが「ショートウィン」という考え方です。小さな成功体験を積ませてあげることで、1年、2年、3年と定着率が高まると言われています。給与も大事ですが、それ以上に「成長している実感」が本人には欲しいのです。そして、本人がその成長に気づいていないケースが実は多くあります。
- 入社時点で、本人と一緒に「1年後、大体こんな感じになっていたい」というレベル感をすり合わせる
- 最初のハードルは、絶対に登れる小さな階段にする(新卒か中途か、経験によってレベルは変える)
- 定期的な面談で「今これができているね」と進捗を言葉にして伝える
- 成長が早ければ目標を前倒しし、遅ければ叱るのではなく一緒に原因を考える
特に、営業職のように数字で成果が見えやすい仕事と違い、事務職などは成果が見えづらく、評価が難しいと言われがちです。だからこそ、こうした小さな階段を意識的に見える化してあげることが、より重要になります。エクセルの表やイラストで進捗を可視化し、本人と共有する。手書きでも構いません。「言葉にして、見える化する」ことが大事です。
もう一つのポイントは、成長したことを上司の口からだけでなく、本人自身の口から言わせることです。「なるほど、こんなことができるようになったんだ」と自分で言語化させることが、上司が一方的に褒めるよりも効果的だと言われています。
この設計を怠ると、本人は「自分は成長していない」と思い込んでしまい、他社の求人や声かけに気持ちが流れやすくなります。マイルストーンは一度作って終わりではなく、成長の度合いに応じて前倒ししたり、遅れている原因を一緒に探ったりと、継続的に調整していくものだと考えてください。
よくある質問
Q. 忙しくて、日々の声かけまで手が回りません。
A. 存在承認は「おはよう」「お疲れ様」「ありがとう」の一言で十分です。長い時間を取る必要はなく、コストもかかりません。まずはこの3つの声かけを切らさないことから始めてみてください。
Q. ショートウィンの目標は、誰が決めるべきですか?
A. 上司が一方的に決めるのではなく、本人と一緒に考えることが大切です。最初は本人も「何が適切な目標か」が分かりません。上司が「まずこれくらいでどうかな」と提案しながら、対話の中で作っていくのがおすすめです。特に事務職など数字が出づらい職種では、エクセルや手書きのイラストで進捗を見える化する工夫が効果的です。
まとめ
承認の土台は、特別な制度ではなく、日々の挨拶や声かけです。そこにショートウィンという小さな成功体験の設計を重ねることで、定着率は着実に変わっていきます。挨拶という「対話(ソフト)」と、成長のマイルストーンを見える化する「仕組み(ハード)」、この両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が育っていきます。
「うちの職場、承認の土台がちゃんとできているだろうか」と感じたら、ぜひ当社にご相談ください。
出典:Gallup「State of the Global Workplace」/Gallup Japan「日本の従業員エンゲージメント調査」
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年7月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

