「うちは従業員が少ないから関係ない」——そう思っていませんか?
50人未満の事業場であれば、規模に関係なく全員が対象。「うちは小さいから」は通用しません。従業員がたった1名でも、義務の対象になり得ます(ただし短時間パートのみの場合など、受検対象者が0名となるケースは除きます)。
2025年5月、改正労働安全衛生法が公布されました。これにより、労働者数50人未満のすべての事業場にも、ストレスチェックの実施が義務化されることが決まりました。施行日は「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、2028年頃が予定されています。
「まだ2年ほどある」と感じるかもしれません。でも、準備なしに迎えると確実に後手を踏みます。この記事では、50人未満の事業場が「何をやらなければならないか」だけに絞って、姫路の中小企業経営者の目線で正確にお伝えします。
(参考:厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70761.html)
目次
目次
- そもそもストレスチェックとは何か?
- 法改正で何が変わるのか
- 50人未満の事業場がやること(義務の全体像)
- 法改正の背景——なぜ今、義務化されるのか
- やらなかったらどうなる?
- 無料で使える支援制度・助成金
- よくある質問
- まとめ
そもそもストレスチェックとは何か?
ストレスチェックとは、労働者がストレスに関する質問票(選択式)に回答し、自身のストレスがどのような状態にあるのかを知ってもらうための検査です。法律上の正式名称は「心理的な負担の程度を把握するための検査」といいます。
厚生労働省の公式資料では、この制度の目的をこう明記しています。
「ストレスチェック制度の目的は、メンタルヘルス不調の未然防止です。メンタルヘルス不調者の発見ではありません。」
これは重要なポイントです。会社が「問題のある社員を見つける」制度ではない。従業員自身がストレスに気づき、自分でケアできるようにするための制度です。
なお、ストレスチェックの結果は、本人の同意なく事業者へ提供することは認められていません。「正直に答えると会社に知られる」という心配をなくし、従業員が安心して回答できる仕組みを守るためのルールです。また、高ストレスと判定されたことを理由に異動・降格・解雇などの不利益な扱いをすることも法律で禁止されています。
法改正で何が変わるのか
ストレスチェック制度は2015年から始まりましたが、これまで「労働者数50人未満の事業場」は努力義務——つまり「やった方がいいけど、やらなくてもいい」扱いでした。
それが2025年5月の法改正で変わります。「50人未満の事業場にもストレスチェックの実施を義務化する」と法律に明記されました。施行日は「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、2028年頃の施行が予定されています。
シンプルに言います。今まで「やらなくていい」扱いだったものが、「やらなければならない」に変わります。これが今回の法改正の本質です。
そして、もう一点。「従業員が1名でも、実施義務があります。」
「うちは2〜3人だから関係ない」は通用しません。50人未満のすべての事業場が対象です。規模の大小で例外はありません。
50人未満の事業場がやること(義務の全体像)
では、具体的に何をすればいいのか。厚生労働省の公式マニュアルに基づいて整理します。
【義務①】年1回のストレスチェックを実施する
従業員に対して、年1回以上、ストレスに関する質問票(検査)を実施することが義務になります。
実施の流れはこうです。
- 従業員がストレスに関する質問票(選択式)に回答する
- 医師・保健師・看護師などの「実施者」が結果を評価し、高ストレス者を判定する
- 結果は各従業員本人に通知される
自社内に医師や保健師がいる中小企業はほぼないと思います。そのため、厚生労働省のマニュアルでは「労働者のプライバシー保護の観点から、原則、外部委託による実施が推奨される」とされています。
外部委託先としては、ストレスチェック実施を専門とする機関(医療機関、産業保健機関、専門サービス会社など)があります。また、厚生労働省が提供する無料の実施プログラムを使う方法もあります。
【義務②】高ストレス者への医師面接指導の機会を提供する
ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された従業員が「面接指導を受けたい」と申し出た場合、医師による面接指導の機会を提供することが義務になります。
注意点として:
- 面接指導を受けるかどうかは、あくまで従業員本人の意思によります(強制不可)
- 「高ストレス者が申し出たこと」を理由に不利益な扱いをすることは法律で禁止されています
- 面接指導を担当する医師は、地域産業保健センター(無料)を活用することができます
「うちに産業医なんていない」という経営者は多いと思います。小規模事業場向けに無料の支援制度が整備されていますので、後述の「無料支援制度」を参照してください。
【努力義務】集団分析を実施する
部署ごとなどのグループ単位でストレスの状況を集計・分析し、職場環境の改善に役立てることが「努力義務」とされています。義務ではありませんが、制度を活用して職場改善につなげるためには非常に有効な取り組みです。
【準備として必要なこと】社内体制の整備
ストレスチェックをただ実施するだけでなく、社内のルール・体制を整える必要があります。厚生労働省のマニュアルが示す準備の手順はこうです。
- ① 事業者として、制度導入の方針を表明する
- ② 社内の実施体制・実施方法について、従業員の意見を聴く
- ③ 社内ルール(規程)を作成し、従業員に周知する
- ④ 委託先との契約・連絡調整を行う実務担当者を指名する
この準備が整って初めて、ストレスチェックが「機能する制度」になります。形だけ実施しても、従業員に制度の趣旨が伝わっていなければ意味がありません。
法改正の背景——なぜ今、義務化されるのか
なぜ今、50人未満の事業場にも義務化するのでしょうか。その背景にはいくつかの深刻な現実があります。
まず、ひとたびメンタルヘルス不調になってしまうと、その休職期間は平均で約3か月。復帰後に再び休職になる割合も高く、特に小規模事業場にとっては大きな人材の損失であり、経営上のリスクに直結します。
大企業であれば産業医が常駐し、相談窓口も整備されています。しかし、従業員20〜30人規模の会社では、誰かが「しんどい」と感じていても、それを組織として把握する仕組みがありません。経営者も日々の業務に追われ、気づけないのが実情です。
さらに、人手不足が深刻化するなか、メンタル不調による突然の欠勤・離職は中小企業にとって致命的なダメージになります。1人が突然抜けるだけで現場が回らなくなる——そんな会社が全国の中小企業の実態です。
政府は「予防」に力を入れる方針を明確にしています。問題が起きてから対処するのではなく、ストレスを「見える化」することで早期に手を打てる体制を整えること——これがこの法改正の根本にある考え方です。
また、ストレスチェック制度に取り組むことで、生産性の向上や人材の確保・定着にもつながるという観点も示されています。義務への対応を最小限にとどめるのではなく、職場改善のツールとして積極的に活用する発想が重要です。
やらなかったらどうなる?
「義務とはいっても、やらなかったら何が起きるの?」という疑問を持つ経営者も多いと思います。正直に言います。軽く見ると、想定以上のリスクを背負います。
行政指導・是正勧告のリスク
ストレスチェック制度に関連した義務を怠った場合、労働基準監督署から是正勧告・行政指導の対象になります。勧告に従わなければ、さらに厳しい対応が取られる可能性があります。
民事上の安全配慮義務違反
こちらの方が、実務上はより深刻なリスクです。
- 従業員がメンタル不調で休職・退職した場合、「会社は安全配慮義務を果たしていたか」が問われます
- 「ストレスチェックをやっていれば早期に気づけたはず」と判断されるリスクがあります
- 「会社が安全配慮義務を怠った」と認定されれば、損害賠償請求につながる可能性があります
義務化の前から「準備していた・しようとしていた」という姿勢と記録が、会社を守る根拠になります。
採用・定着への影響
「ストレスチェックをやっているか」は、求職者が会社を選ぶ基準になりつつあります。特に若い世代は職場のメンタルヘルス環境を重視します。「法律も守れていない会社」という評価は、採用力・定着率に直接影響します。
無料で使える支援制度・助成金
「小さな会社にはハードルが高い」——そう感じる経営者も多いと思います。しかし、国は50人未満の事業場向けに手厚い無料サポートを用意しています。
① 産業保健総合支援センター(産保センター)
全国47都道府県に設置。ストレスチェック制度の導入相談・実施支援を無料で行っています。「何から始めればいいかわからない」という段階でも相談できます。
② 地域産業保健センター(地産保)
全国約350か所に設置。労働者数50人未満の事業場を対象に、高ストレス者への医師面接指導などの産業保健サービスを無料で提供しています。「面接指導を担当する医師がいない」問題も、ここで解決できます。
③ ストレスチェック制度サポートダイヤル
電話:0570-031050(全国統一ナビダイヤル)
受付:平日10時〜17時(土日・祝日除く)
専門スタッフが電話で相談に応じています。「うちの場合どうすればいい?」という具体的な疑問も気軽に聞けます。
④ 団体経由産業保健活動推進助成金
中小企業等が産業医・保健師等と契約して産業保健サービスを受けた場合に、費用の一部を助成する制度です。詳細は厚生労働省のページをご確認ください。
よくある質問
Q. パートタイマーもストレスチェックを受けさせなければなりませんか?
A. 受検の対象となるのは、基本的に「契約期間1年以上、かつ週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上」の方です。それ以外の短時間パートの方は法律上の義務の対象外ですが、できるだけ広く実施の機会を提供することが望ましいとされています。なお、回答はあくまで本人の任意です。実施の機会を提供する義務はありますが、回答を強制することはできません。
Q. 費用はどれくらいかかりますか?
A. 外部の実施機関に委託する場合、従業員1人あたり500〜2,000円程度が相場です(機関によって異なります)。厚生労働省が提供する無料の実施プログラムを使えばツール費用はゼロにできますが、管理の工数が発生します。また、地域産業保健センターを活用すれば、医師面接指導にかかる費用を抑えることができます。シリーズの次の記事で実施方法と費用を詳しく比較します。
まとめ
50人未満の事業場がやること、シンプルにまとめます。
- 年1回、従業員にストレスチェック(質問票)を受けてもらう
- 高ストレス者が申し出たら、医師面接指導の機会を提供する
- そのための社内ルールと実施体制を整えておく
以上が、今回の法改正で50人未満の事業場に課される義務の全体像です。シンプルです。でも、何も準備しないまま施行日を迎えると、慌てて動くことになります。
そして何より、法律に対応することが目的ではなく、従業員が安心して働ける職場をつくることが本来の目的です。ストレスチェックを「やるだけ」で終わらせるか、職場改善につなげるか——その差が2〜3年後の職場環境と離職率に確実に出てきます。
ストレスチェックの導入準備を、社労士がまるごとサポートするサービスも提供しています。「何から手をつければいいかわからない」という方は、お気軽にご相談ください。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

