ストレスチェックを実施して、高ストレスと判定された従業員が出た。
——そのとき、あなたはどう動きますか?
「何もしなくていい」は間違いです。「本人に直接聞く」も間違いです。「担当から外す」は最悪です。誤った対応が、後に労務トラブルの火種になります。
高ストレス者への対応は、ストレスチェック制度の中でも最も重要なフェーズです。この記事では、高ストレス者が出た場合の正しい対応手順と、経営者が絶対にやってはいけないことを整理します。
目次
目次
- 「高ストレス者」とは何か
- 高ストレス判定後の正しい流れ
- 面接指導——誰が、どうやって行うか
- 面接指導後、会社がすべきこと
- 絶対やってはいけない「不利益取扱い」
- 高ストレス者が出ても慌てないための事前準備
- よくある質問
- まとめ
「高ストレス者」とは何か
ストレスチェックのアンケート結果をもとに、実施者(医師・保健師等)が「高ストレス状態にある」と判定した従業員のことを高ストレス者といいます。
判定の基準は「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3軸で点数化され、一定以上のスコアになった場合に高ストレスと判定されます。一般的な実施では、全受検者のうち約10〜15%程度が高ストレス者として抽出されるとされています。
ここで重要な点が2つあります。
一つ目。高ストレス判定の結果は、本人の同意なく会社側に開示されません。実施者から高ストレス者本人に結果が通知され、「医師の面接指導を受けることができる」と案内されます。会社が知るのは、本人が面接指導を「申し出た」場合のみです。
二つ目。高ストレス者が出たこと自体は、「問題のある職場」ではなく「正直に答えてくれた職場」の証拠でもあります。判定結果を恐れるより、出てきた情報を正しく活かすことが大切です。
高ストレス判定後の正しい流れ
高ストレス者が出た後の正しい流れは、次の通りです。
- ① 実施者から高ストレス本人に結果を通知し、面接指導を受けられることを案内する
- ② 本人が「面接指導を受けたい」と申し出る(任意)
- ③ 会社は申し出を受けて、医師による面接指導を実施する(ここは義務)
- ④ 医師から会社に就業上の措置に関する意見を聴取する
- ⑤ 医師の意見をもとに、必要な就業上の措置を検討・実施する
- ⑥ 記録を保存する(面接指導の実施記録・措置内容など)
重要なのは、「申し出るかどうかは本人の判断」「申し出があれば会社は必ず応じる義務がある」という構造です。会社側から「高ストレスだったから面接に行け」と強制することはできません。あくまで本人の意思を尊重した上で、環境を整えておくことが会社の役割です。
また、申し出がなかった場合でも、会社として「関係者全員が申し出しやすい雰囲気を作れていたか」は問われます。「申し出がなかった=問題なし」ではありません。
面接指導——誰が、どうやって行うか
面接指導は、医師が行います。自社に産業医がいない場合(50人未満の多くの事業場がそうです)は、外部の医師に依頼することになります。
面接指導の主な確認内容は以下の通りです。
- 勤務の状況(労働時間・業務内容・職場環境)
- 心身の状況(自覚症状・睡眠・食欲など)
- その他、就業上の措置が必要かどうかの判断に必要な事項
面接指導の後、医師は会社に対して「就業上の措置に関する意見書」を提出します。「残業を制限すべき」「配置転換を検討すべき」「休職が必要」など、医師の判断が具体的に記載されます。
会社はこの意見を無視することができません。必ず内容を確認し、就業上の措置(時間外労働の削減、業務内容の見直しなど)を検討する義務があります。措置を講じない場合は、その理由を記録として残しておく必要があります。
「医師に言われたからといって、すぐに配置転換や休職をさせなければならないのか?」という疑問を持つ経営者も多いです。措置の内容は最終的に会社が判断しますが、医師の意見を踏まえた上で合理的な理由なく放置することは、安全配慮義務違反につながるリスクがあります。
面接指導後、会社がすべきこと
面接指導が終わったら、会社として行うべきことが3つあります。
① 医師の意見をもとに就業上の措置を実施する
時間外労働の上限設定、業務負荷の軽減、配置転換、休職——具体的な措置内容は従業員の状況と医師の意見によって異なります。「できる範囲でやる」という姿勢ではなく、従業員の健康を守ることを優先した判断が求められます。
② 記録を保存する
面接指導を実施した記録(実施日・対応した医師・本人の氏名・内容の概要)と、就業上の措置の内容を文書で残します。記録の保存期間は5年です。「やった」という証拠が残っていなければ、後から「やっていない」と同じ扱いになりかねません。
③ フォローアップを続ける
面接指導をして終わり、ではありません。措置を実施した後も、当該従業員の状態を継続的に把握し、必要に応じて対応を調整していくことが求められます。「一回対応したから大丈夫」という認識は危険です。メンタルヘルスのケアは、制度的な対応と日常的な関わりの両輪で進めることが重要です。
絶対やってはいけない「不利益取扱い」
高ストレス者への対応で、最も厳しく禁止されているのが「不利益取扱い」です。高ストレス判定を理由にした不利益な扱いは、労働安全衛生法で明確に禁じられています。
具体的に禁止される行為は以下の通りです。
- 面接指導の申し出を理由にした解雇・雇止め・降格・減給
- 高ストレス判定を理由にした配置転換・出向(本人の意向に反するもの)
- 面接指導の申し出や結果を理由にした昇進・昇格の妨害
- 高ストレス状態であることを理由にした退職勧奨
「本人のためを思って担当を外した」「ストレスが少ない職場に異動させた」——善意の行動でも、本人の意向を確認せず一方的に行えば不利益取扱いと判断されるリスクがあります。
また、「高ストレスだった人の評価を下げていないか」も注意が必要です。業績評価と切り離して考えることが原則ですが、無意識に影響が出ていないか、管理職への教育も含めて意識しておく必要があります。
不利益取扱いが認定された場合、損害賠償請求・労働審判・労基署への申告につながります。ストレスチェックを実施したことで、かえってトラブルを招く——これが最悪のパターンです。制度の趣旨を正しく理解した上で運用することが、経営者に求められます。
高ストレス者が出ても慌てないための事前準備
「高ストレス者が出てから考える」では遅いです。出た時点で慌てないために、事前に整えておくことが3つあります。
① 面接指導を依頼できる医師を確保しておく
50人未満の事業場には産業医の選任義務はありません。しかし、高ストレス者が申し出た場合、面接指導を実施できる医師との接点がないと対応できません。都道府県の産業保健総合支援センターは無料で相談でき、医師の紹介も行っています。事前に問い合わせておくだけで、いざというときの対応速度が大きく変わります。
② 対応手順を社内で文書化しておく
「申し出があったら誰が対応するか」「医師との連絡はどう取るか」「措置の内容はどう決めるか」——これらを事前に文書化しておくことで、いざ高ストレス者が出たときにも落ち着いて動けます。手順書がないまま対応すると、抜け漏れが生じやすく、後から「適切に対応していなかった」と問われるリスクが高まります。
③ 不利益取扱いの禁止を管理職に周知する
経営者が知っていても、現場の管理職が知らなければ意味がありません。「高ストレスと言われた人をどう扱うべきか」を事前に管理職に伝えておくことが重要です。善意による誤った対応を防ぐためにも、制度導入前に一度、管理職向けの説明の場を設けることをお勧めします。
よくある質問
Q. 高ストレス者が申し出をしない場合、会社は何もしなくていいですか?
A. 申し出がなければ、面接指導の義務は発生しません。ただし、「申し出しやすい環境を整えていたか」という観点は残ります。高ストレス者が多数出ているにもかかわらず、誰も申し出ない状況が続く場合は、「申し出ること自体への不安・不信感がある」というサインかもしれません。制度の案内方法や職場の雰囲気を見直すきっかけにすることが大切です。
Q. 面接指導にかかる費用は会社が負担しますか?
A. 面接指導は会社の義務として実施するものであるため、費用は会社が負担するのが原則です。また、面接指導を受ける際の時間(受検時間)については、就業時間として扱うことが望ましいとされています。「自分の休憩時間に行け」という対応は、従業員が申し出をためらう原因になりますので注意が必要です。
まとめ
高ストレス者への対応は、ストレスチェック制度の「本番」です。アンケートを実施することがゴールではありません。高ストレスと判定された従業員が安心して申し出でき、適切な面接指導と措置を受けられる——この流れを整えることが、制度を機能させることの意味です。
もう一度、やってはいけないことを確認しましょう。高ストレス判定を理由にした不利益取扱いは、法律違反です。善意であっても、本人の意向を無視した対応は許されません。
「制度を整えること」と「人として向き合うこと」の両方が求められる。ストレスチェックはそういう制度です。
当社では、高ストレス者が出た場合の対応手順の整備から、面接指導できる医師の紹介まで、社労士がまるごとサポートするサービスを提供しています。事前に備えたい方は、お気軽にご相談ください。
筆者プロフィール
泉 正道(いずみまさみち)|特定社会保険労務士/採用定着士/生成AIアドバイザー
姫路を拠点に中小企業延べ150社以上へ伴走。採用・定着・労務の相談累計3,000件超(2026年6月現在)。北は福島、南は佐賀まで顧問先があり、全国オンライン対応。
「採用より定着が先」——これが口癖であり、信念。耳が痛くても言い続ける。親に与えてもらった環境や収入を「全て自分の力」と誤解する2代目社長に説教して解約された経験あり。それでも伝え続けるのが私の役目。
支援の軸は制度(ハード)と対話(ソフト)の両輪。就業規則や評価制度を整えるだけでも、研修や面談を繰り返すだけでも、人の問題は解決しない。両方が噛み合って初めて、人が辞めない組織が動き出す。伴走とダメ出しができる社労士。
生成AI支援では「研修を受けた企業の9割が1ヶ月後に何もしていない」という現実に向き合い、経営者のPCを直接触り、当日に課題を解決する「実装型」の伴走を展開。商工会・商工会議所・大手生命保険会社でのセミナー講師としても精力的に活動中。

